新宿店4階「一杯の珈琲商店」の店主、向井が、またまたバリスタの世界チャンピオン粕谷哲さんとともに対談を開催!今回のお相手は、コーヒーではなく日本酒づくりに携わる「杜氏」の寺澤善実さん。コーヒーと日本酒。一見かけ離れた飲み物のつくり手同士ですが、実は共通点が多くありました。今回も、熱い想いを持つ二人による対談の模様をお届けします!
コーヒーの世界でも、いま「発酵」がキーワード!
今回の対談は、東京23区で唯一の日本酒醸造所、〈東京港醸造(とうきょうみなとじょうぞう)〉さんの酒蔵にお邪魔しての開催です!
今回も司会は「一杯の珈琲商店」の店主、向井。今日も若干緊張しています。
向井:今回の対談は、お二人のつくられる飲み物やお仕事への姿勢などに共通点があるのではという私の個人的な想いで実現しました。本当にありがとうございます(笑)
2016年のワールドブリュワーズカップで優勝した、粕谷バリスタ。発酵に興味津々の様子。
粕谷:さっそくその共通点でいうと、実はいまコーヒーの世界でも発酵させた豆をつかうことが非常に多くなっていまして。私が以前優勝した世界大会でも、いまでは勝ち残る人のほとんどが発酵させた豆を使っているほどなんです。
こちらが東京港醸造の杜氏、寺澤善実さん。この道40年の大ベテランです。
寺澤:いまコーヒーの世界ではどのような発酵が行われているんですか?
粕谷:生豆をタンクに漬け込んで、窒素の量をコントロールして発酵させるとか、果物の酵母で発酵させるとかですね。まだまだ私も勉強中でわからないことが多いのですが。
寺澤:その辺りの研究は日本ではやっていないのですか?
粕谷:なかなか聞きませんね。一部、沖縄のコーヒー農園でそういった取り組みをしているようですが。
寺澤:日本酒の世界ではよくあるのですが、大学の研究機関に一度相談するのもいいかもしれませんね。弊社の場合も「江戸開城」というお酒をつくるときに、江戸にまつわる酵母や麹菌を大学に探してもらったんですよ。
向井:そんな手段があるんですね。初めて知りました。
粕谷:いきなりいいお話が聞けました(笑)。私の話でいうと、いまラオスのコーヒーづくりの支援をさせてもらっているのですが、標高が低いなど土地としての条件が厳しくて。そこに発酵を取り入れておいしい豆をつくれないかと思っているんです。
寺澤:土地と聞くと、なんだかワインに似ていますね。
粕谷:まさに僕らが取り組もうとしているのは、ワインの発酵プロセスを転用したものなんです。カーボニックマセレーションと呼ばれる二酸化炭素を注入するものであったり。日本酒の発酵はまたちがうものになりますか?
寺澤:日本酒では、麹や酵母、乳酸菌などが発酵の主役ですね。お話ししたように大学などでも研究されていますから、その結果や文献を参考にしたり技術者同士の情報交換から試行錯誤するプロセスも多いですね。
粕谷:日本酒の製法って、何か秘伝のようなものがあるのかと思っていました。
寺澤:意外に思われるかもしれませんが、酒造関係者は割とコミュニケーションを取り合いますね。大学を通じたつながりや、製造設備関係の技術者から情報をもらったりなども頻繁ですよ。
粕谷:シェアする文化が根付いているんですね。イメージとまったく逆とは驚きました。
つくり手として「小さい」ことへのこだわり
向井:発酵も含めてですが、お二人それぞれのコーヒーとお酒づくりにおいて、私は規模の小ささも共通点だと思っていまして。
寺澤:私の場合は、元々は大手の酒造メーカーにいたのですが、そこで新しい試みで立ち上げたお台場の小さな醸造所が契機になりました。最終的に業界内では知られた鑑評会で賞をいただけまして、そこで学んだノウハウをもとに、この東京港醸造に誘われたという経緯があります。
向井:この4階建の酒蔵に、寺澤さんの経験が詰め込まれているのですね。
寺澤:はい。もっともはじめは本当に何もなくてビルの一階にぽつんとしてましたけど(笑)。この酒蔵は、清酒については製造免許がおりてからまだ2年半くらいでして。2009年から少しずつお酒も設備も整えてきました。
向井:粕谷さんの「フィロコフィア」も、大きなお店ではありませんよね。つくり手として小さいことのメリットはありますか?
粕谷:いろいろ試せることがやっぱり一番ですね。こまめに軌道修正もできますし。僕の場合は個人的に「もっとこうしたい」という想いが強いということもありますが。
寺澤:私もそう思います。また、将来的にはもっと小ささにこだわりたいなとも思っていて。ちょっと極秘事項なのでお話できないんですけど(笑)。もう現実に進んでいて、特許なんかも申請している最中なんですよ。
向井:すごく気になりますね!あとでこっそり聞こう(笑)。あとは、東京だからこその小ささという面もあるかと思うのですが、土地へのこだわりなどはあるのでしょうか。
寺澤:なんといっても、東京は消費地としての魅力があります。流通コストも少ないですし。
向井:なるほど、ビジネスの側面から。
寺澤:はい。私の中では、そこも含めてお酒づくり全体をコントロールしたいという想いがあります。そして再現性の高いお酒をつくりたいんです。そのための温度管理や数量の調整などは、やはり小さい規模の方がやりやすいと思いますね。
向井:小さいからこその強みや創意工夫が、お二人のおいしいコーヒーとお酒づくりにつながっているんですね。
お互いのコーヒーとお酒には、目指すべき共通の目標があった!
向井:今日の対談前に、事前にお互いのコーヒーとお酒を試飲していただきましたが、感想はいかがでしたか?
寺澤:私は、酒蔵の仲間と一緒にみんなで一番いい淹れ方をしてみようと挑戦しました。比較対象があったほうがいいだろうと、コンビニでもコーヒーを買ってきまして(笑)。飲んでみたら色は同じようでしたが、全然似て非なるもので。
向井:どう違ったんですか?
寺澤:味の幅、そして複雑さが全く違うと。口の中に含んだ時の香りだったり、残っている香りの心地よさだったり。苦味とか酸味だけでなく口の中でうまくバランスが取れているといいますか。とにかく初めての味わいでしたね。
粕谷:きっと淹れた方が上手だったんですね(笑)
向井:逆に粕谷さんはいかがでしたか?
粕谷:私は2つのお酒をいただいて飲みましたが、もちろんそれぞれおいしいと。ただ一番感じたのは、このお酒をつくった人はきっとチャレンジングな、もっというとぶっ飛んだ人だろうと(笑)。
向井:それは発想ということですか?
粕谷:そうですね。2つのお酒の間で、味の幅がものすごく大きかったので。一つのブランドでここまで違いのある味はなかなかできないんじゃないかと感じましたね。
向井:お二人ともに、とても刺激を受けた味だったようですね!最後に、お互いに質問はありますか?
粕谷:僕自身がいつも考えていることなんですが、寺澤さんにとっておいしい日本酒はどんなお酒なんですか?
寺澤:目指しているお酒とも言えるんですが、「さわりなくのめて、味わい深いお酒」だと考えています。飲み始めは自己主張が少ないですが、お料理と一緒に飲んでいくうちに、最後何か忘れがたくなる。初恋の彼女みたいに(笑)。そんなお酒が理想ですね。
粕谷:その理想は、僕がコーヒーで考えていることと全く一緒ですね。僕もいつも取材などで、「水のように飲めて、複雑な味わいがあるコーヒー」と答えているんです。ちょっとシンクロしすぎてびっくりしました。やってきたことは間違ってなかったのかなって。
向井:違う飲み物なのに、目指す味わいが一緒ってすごいですね!寺澤さんからは何かありますか?
寺澤:質問というより、今の姿勢のまま進んでいってくれればと。きっとコーヒーの世界で記録にも記憶にも残る方になると思うので。迷うことなく、これからもがんばってください!
粕谷:すごく勉強させてもらいました。精進します!
向井:お二人、今日は本当にありがとうございました!
【おまけ1】都内で一つの日本酒醸造所を見学!
対談が終わってから、寺澤さんご自慢のスモールブリュワリーを見学させてもらいました!
こちらがお酒づくりのメインとなるタンク。ここから、寺澤さんのアイデアがつまった数々の日本酒が生まれていきます!
全てのタンクには、このようにキャスターがついています。スペースを有効活用するための、スモールブリュワリーならではの工夫です。
上の階で蒸しあげたお米は、この大きなパイプを使って階下へ。階段やエレベーターも使わずに運ぶことが可能です。
こちらは酒蔵の中でも特に大きな絞り機。お酒のもととなる「もろみ」をいれて圧縮することでお酒を絞り出します。
こちらは酒母。酛(もと)とも呼ばれ、麹と水、そして蒸米を混ぜた状態で酵母を加えて培養したもの。日本酒ならではの甘みのある香りが立ち上ります!
最後は、特別にこれから発売されるいちごのお酒の試飲もさせてもらいました!いちごを存分に感じさせる、あまずっぱく、すっきりとした味わいでした!
【おまけ2】お二人のコーヒーとお酒は東急ハンズで買えます!
今日ご紹介した、粕谷さんの〈フィロコフィア〉のコーヒー、そして寺澤さんの〈東京港醸造〉のお酒は、東急ハンズ4階「一杯の珈琲商店」で取り扱っています!ぜひ店頭でチェックしてみてください。
なお、醸造所の見学の際に試飲させていただいた「みがき苺どぶろく 1,400円+税」も3月下旬より販売予定です!
フィロコフィア ラダーブレンド(ミディアム・ミディアムダーク・ダーク) 各1,400円+税
〈フィロコフィア〉のコーヒーの中でも特に人気のシリーズ。コーヒー本来の甘さと心地よい酸が、バランスよくブレンドされています。冷めてもおいしいので、時間をかけてゆっくりと移ろう味わいを楽しむこともオススメですよ!
左:江戸開城 2,000円+税/右:パラキャセイ 2,000円+税
酒造米として名高い山田錦の、コクとキレの良さが特徴の「江戸開城」。2年前の発売ながら、すでに人気の高い一本となっています。生きた乳酸菌を使用した「Palla-Casey(パラキャセイ)」は、「生酛×速醸」から生み出された、新感覚の日本酒で、高い酸とほのかな甘みは白ワインを感じさせる味わいになっています。
おわりに
原料やつくり方にそれぞれのこだわりを持って、日々研究を怠らない粕谷さんと寺澤さん。お二人が理想の一杯にたどり着く時を、心から楽しみにしたいと思える対談でした。ぜひ、みなさんもお二人のつくるこだわりのコーヒー、そして日本酒を味わってみてくださいね。
粕谷哲さんのお店「フィロコフィア」はコチラ>>
寺澤善実さんの醸造所「東京港醸造」はコチラ>>
前回の向井の対談記事「【コーヒー対談】世界チャンピオン粕谷哲さんと16歳の焙煎士岩野響さんが出会った。」はコチラ>>
※掲載商品は一部店舗では取り扱いがない場合がございます。取り扱い状況については各店舗へお問い合わせください。
※掲載商品は、一部の店舗ではお取り寄せになる場合がございます。
※一部価格・仕様の変更、および数に限りがある場合もございます。※掲載写真には一部演出用品が含まれます。
※商品価格等の情報は、掲載時点のものです。