【岩野響さん×向井店主】2人のコーヒーの達人が伝える「ペーパードリップ」の極意

コーヒーの最もポピュラーな抽出法と言える「ペーパードリップ」。その上手な淹れ方やポイントを、いま注目を集める18歳の若き焙煎士 岩野響さんと、東急ハンズ新宿店「一杯の珈琲商店」店主の向井がレクチャー。コーヒーの奥深さを存分にお伝えします!

シンプルながらも奥が深い。ペーパードリップの魅力とは

―今日はよろしくお願いします。コーヒー初心者の代表として学ばせてください!

岩野・向井:よろしくお願いします!

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左:ホライズンラボ 焙煎士 岩野響さん
右:東急ハンズ新宿店4階「一杯の珈琲商店」店主 向井

岩野響さんと店主 向井に関する主な記事はこちら>>>

―お二人のご紹介は他の記事に譲りまして、さっそく本題に。実践の前に、まずはペーパードリップの特徴などを教えてください。

岩野:誰でも淹れやすい方法ですね。手軽にできて、ネルドリップのように淹れ方やフィルターの管理も難しくありません。味の工夫がしやすいのも魅力です。

向井:紙がコーヒーの油や雑味を吸い取るので、比較的さっぱりとした味になります。日常使いにはぴったりですね。

―最初は岩野さんも、ペーパードリップから始められたんですか?

岩野:はい。でも最初はお湯もスムーズに注げませんでした。あと、本来は豆に応じてレシピ(淹れ方)を変えますが、当初は一つのレシピしか知らなくて、あまり美味しくできなかったです。

向井:私も全く同じでした!

岩野:僕は焙煎士でバリスタではありませんが、最初は当然、抽出から始めました。だから研究もしましたし、いまでも抽出にはこだわっています。

―ペーパードリップの楽しさはどんなところでしょう。

岩野:他の方法より、いじれる要素が多いところですね。複数の要素が重なるので個性が出やすく、そこが難しくもあり、楽しくもあります。

向井:たとえば「細く注ぐのが大事」とよく言いますが、それも要素のひとつでしかなくて。そこが多少ブレても他の要素で補えるんですよ。

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―そうなんですね。ではどうすれば美味しくできるようになりますか?

岩野:数を重ねることですね。毎日のように続ければ、いつの間にか美味しく淹れられるようになりますよ。

向井:何度も淹れているうちにコツはつかめます。基本のポイントがわかってくれば、どんどん楽しくなっていきます!

実践に移る前に、まずは使用する道具を確認

向井:今日使う基本の道具はこちらです。

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左から
ポーレックス セラミックコーヒーミル Ⅱ 6,300円+税
ハリオ V60ドリップケトル・エアー 1,300円+税
ハリオ 浸漬式ドリッパースイッチ 3,500円+税
ハリオ V60ペーパーフィルター02(100枚入) 370円+税
バルミューダ ザ ポット ブラック 黒 11,000円+税

向井:まずはミルです。豆は直前に挽くのが一番です。豆の鮮度も保てますし、香りが違いますからね。こちらはセラミック刃の手動タイプです。

―岩野さんはこちらのミルを使われたことはありますか?

岩野:はい。粒度の調節も簡単で使いやすいです。コンパクトなので外出先でも便利ですね。

向井:次はケトル。均等にお湯を注ぐために専用ケトルにお湯を移します。今回使うこちらはイチ押しの新商品です!

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特に初心者の方はポットから直接注ぐのではなく、ケトルにお湯を移してから注ぐのがポイント。透明なのでお湯の量や動きが確認しやすい。

岩野:これは初めて使うので楽しみです。

向井:続いてドリッパー。今回はお湯を溜めるためのストッパーが付いた、初心者も上級者も使えるマルチなタイプを使います。

―実はドリッパーの違いがよくわからないのですが、選ぶ際のポイントはどこでしょう。

向井:穴の大きさですね。大きいとお湯がすぐに落ちるので、すっきりとした味になりやすく、小さいとお湯がドリッパーの中に長く留まるので、苦みやコクが出やすくなります。

―なるほど。他に、これを使うとよりよい、というものはありますか?

向井:温度計と秤(スケール)です。この秤にはタイマーも付いています。初心者の方ほど使ってほしいですね。

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シンワ測定 ホームサーモ デジタル温度計 ピンク 1,450円+税
ハリオ V60 ドリップスケール ブラック 6,000円+税

岩野:レシピの再現には不可欠ですね。慣れると感覚でできる部分もありますが、僕は今でも必要に応じて使っていますよ。

向井:私もです。好きな味を見つけるという意味でも便利ですね。

―そして肝心の豆は、今日は何を使うんでしょうか?

向井:岩野さんが焙煎した豆を使わせていただきます。

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HORIZON LABO 描写 豆(150g) 1,600円+税

岩野:焙煎士の視点で「抽出する」楽しさにフォーカスし、どんな淹れ方でも美味しくなるように調整しています。深煎りがベースですが、全体的にやわらかい印象の味わいです。

―ちなみに〈描写〉という名前にはどんな意味がこめられているんですか?

岩野:コーヒーを淹れる時、誰しも無言になりますよね。その時に、自分の心情などをコーヒーに投影して「描写」してもらえれば...、という思いを込めました。

―なんとも、深い...。

岩野:でも知らなくても美味しく飲めますよ(笑)

―よかったです(笑)

向井:今回は器も岩野さんにご用意いただきました。

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―コーヒーの器としては珍しいですね。持ち手のない器がコーヒーに向いているんですか?

岩野:僕の好みです(笑)。温度を直に感じられるので。口が小さめだと香りも逃しませんね。コーヒー自体はどんなコーヒーでもビジュアル的には変わりはないですよね。だから感覚的な部分を大切にしているんです。

いよいよペーパードリップを実践。最初は店主 向井から

―ではいよいよ実践をお願いします!

向井:最初は私がスタンダードなやり方で淹れてみますね。まずは豆を挽きます。量は20gです。

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―回し方のコツはありますか?

向井:私は腰骨あたりで固定して回します。回す速さは自分の楽なペースでよいと思います。速度の差で味が大きく変わることは無いと思います。

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腰につけて回すと固定されて回しやすいそう。

―粒の大きさはどれくらいがスタンダードなのでしょうか。

向井:一般的にはグラニュー糖からザラメの間と言われています。あまりにも細かいと苦くなってしまいますので。では豆が挽けたら、次にフィルターをサッと湯通ししますね。

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―なぜ湯通しをするんでしょうか?

向井:抽出した最初の一滴をフィルターに吸い取られないようにですね。しない方がよいという人もいますが、私はいつもしています。

―なるほど。それは知らなかったです!

向井:最適なお湯の温度は85〜92℃が基本と言われています。今回は90℃に。沸騰したお湯をケトルに移し替えると、それに近い温度になります。

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岩野:温度計があるとラクですね。

向井:はい。では粉を入れて、お湯を注いでいきます。

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―いわゆる「の」の字ですね?

向井:そうですね。真ん中から、円を描くように。最初に粉と同じ量のお湯を注いで、粉から味を引き出しやすくするために30秒ほど待ちます。ここで、粉の内部から成分が出てくるんです。これを「蒸らし」と呼んでいます。

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―注ぎ足すタイミングが難しいんですが...。タイミングはいつですか?

向井:粉の状態を見ながら、落ち切ったと思ったら注ぎ足す感じです。落ち切る前に注ぐ、少量ずつ切れ目なく注ぐなど、注ぎ方はいろいろですね。

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―今回のお湯の量はどれくらいでしょうか?

向井:今回は240ccつくりたいので、粉が吸う分を含めて260cc注ぎます。

―よく「フチは崩さない」と言いますよね?

向井:はい。それもポイントです。真ん中に注ぐだけでも、端までお湯は回るからです。フチを崩すことで、せっかくできた美味しさの濾過層まで壊れてしまう、という考え方ですね。でも崩せと言う人もいて、人それぞれですよ(笑)

―そういう理由なんですね...。私が家で淹れる時もいつもそこで苦戦しています(笑)

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向井:よし、できました!最終的にはこんな感じに。

―きれいな層ができていますね。

向井:はい。今回は3回に分けてお湯を注ぎました。注ぐ時間は「蒸らし」の工程を含めて約3分。このぐらいがペーパードリップの標準的な時間です。味を均一にするため、器に入れる前にスプーンでかき混ぜることもお忘れなく。では味見を!

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向井:岩野さん、どうでしょうか?

岩野:うん、美味しいです。

―すごく美味しいですね!

向井:ちゃんと〈ホライズンラボ〉の味になりましたね。甘みも苦みもあって。では続いて、岩野さんに淹れてもらいましょう!

同じ豆で味わいを変える?続いて岩野さんが実践!

岩野:では僕は、向井さんの味を基準に、それを「もっと濃く、深くする」と「もっとすっきりさせる」という二方向で淹れてみようと思います。

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―同じ豆を使って淹れて、味が変わるんですか?

岩野:はい、道具も手順も同じです。まずは「もっと濃く、深くする」からやってみましょう。豆は同じく20gで、先ほどと同じ粒度で挽きます。

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向井:腰に当てないスタイルですね。でもこれも自分のスタイルが一番ですよね。

岩野:はい(笑)。持ち手と本体を同時に回せるので僕はこうですね。では豆が挽けたら、同じくフィルターを湯通しします。

―岩野さんも、いつも湯通しをしているんですか?

岩野:そうですね。あえてしない時もありますが。あとは、フィルターを2重にする時もあります。

向井:2重にするんですか?

岩野:なんと言うか"紙っぽさ"を味わいたい時にですね。パルプの感じがほしい時があるんです。

向井:紙っぽさを味わう!?すごい感覚だ!

―深すぎますね(笑)

岩野:では戻りましょう。お湯の温度は80℃にします。僕の中では、温度が高いと味が強く出て、低いと味がやわらかくなる、という印象がありますね。ではまず中央に注ぎます。

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―最初の蒸らしは向井さんより少なめですね。

向井:たしかに。5ccほどかな?

岩野:はい。濃くするためにじっくり蒸らしたいので少なめにしました。

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―注いだのは中央だけで、まわりは乾いた状態。こうやって蒸らすんですね。

岩野:はい。少し置いたら、続けて注いでいきます。今回使うこのドリッパーは、ここでストッパーを使えば、さらに漬け込むこともできますよ。

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―慎重にポタポタと垂らすような感じですね。

岩野:はい。「蒸らし」に重きを置いているので少しずつ注ぎます。

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向井:ネル(布フィルター)での淹れ方に近いですね。

岩野:円を描きつつ、粉に満遍なくお湯が回るように。あと僕はいつも、あえてフチを崩すくらいで注ぎます。

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―あえて崩す理由とは何ですか?

岩野:僕の感覚では、外側の方が落ちるスピードが早い気がして。真ん中ばかりに注ぐと味が重くなるので、濾過槽は壊さないようにしつつ、フチを崩すことでバランスがとれると思っています。

向井:なるほど。

―完全に崩すわけではなく、すごく丁寧に注いでいますね。

岩野:濃く淹れたいので、200ccのお湯で、できあがりは140ccにします。

―あれ?まだドリッパーに水分が残っていますが...。

岩野:最後の方は雑味が強くなるので、残っている状態で終わりにします。

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向井:今回、抽出時間は約4分。私は約3分でした。少しずつ注いだ分、長いですね。お湯の量も先ほどより少ないので、その分濃くなりますね。

岩野:はい。では味見してみましょう。濃くなっているとよいのですが...。

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※量を量るために一度ケトルに移してから注いでいます。

向井:これは楽しみだなぁ。

岩野:心配なので先に飲みますね(笑)。

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岩野:しっかり重たく、濃くなりました。上手くいきました。

向井:ホントだ、明らかに濃い。

―濃いです!こんなに変わるんですね、不思議です。

向井:面白いですよね。同じ豆とは思えないほどです。そして美味しい!

今度は「もっとすっきりさせる」淹れ方を実践

岩野:次は「もっとすっきりさせる」淹れ方をやってみます。

―お願いします。がぜん楽しみになってきました!

岩野:豆は同じく20gですが、今度は少し粗めに挽きます。こんな感じですね。

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―粗くするのは、なぜですか?

岩野:粗い方が粒同士の隙間が多くなってお湯の抜けが早くなり、細かい粉も少ないので、相対的にすっきりします。そして今回はフィルターの湯通しをしません。最初の抽出分を紙が吸い取った方が、よりすっきりするかなと思って。

―なるほど。すべて理論的で、聞いて納得です。

岩野:上手くいくかはわからないですけど(笑)

向井:いろいろ試すのが大事なんですよね、正解はないので。

―こういう部分が楽しさなんですね!だんだんわかってきました。

岩野:ではお湯を注ぎます。今回は79℃で。

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向井:最初は少し多めですね。

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岩野:先ほどの3倍くらいです。

―今回は、最初の注ぎで既にフィルターにも浸透していますね。

向井:あ、そういえばこのケトル、いかがですか?

岩野:注ぎやすくて便利ですね、熱くならないし。金属製だと熱くて持てない時もあるので。

向井:耐熱性のプラスチック素材です。入門編としてもおすすめです!

―私もほしいです!

岩野:では、さらに注ぎ足していきましょう。

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―先ほどより、1回に入れるお湯の量も多めですね。

岩野:お湯の割合を増やすイメージです。

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向井:大きく円を描いていますね、そして外側も少し崩しながら。

―でも丁寧さは変わりません。

岩野:これでだいぶすっきりしたと思うんですが...。

向井:4回に分けて約3分で注いだので、先ほどより早いですね。270ccのお湯で210ccできました。

岩野:味見しましょう。ではまた僕から。

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岩野:あぁ、よい感じです。

向井:美味しいですね!飲みやすくて爽やかです。

―先ほどのどちらとも違います。またはっきりと変わりましたね、びっくりです!

岩野:やわらかくなりました。余韻やコクが強くなったというか。

向井:すっきりしているけど美味しい成分はしっかり出ています。
不思議なもので、岩野さんが淹れると岩野さんの味になりますね。どこか森の香りがする感じで...。

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岩野:ホントですね。もっとさっぱりするかと思ったんですが、意外とボディが残っていて、僕の好きな味になりました。

(この後、取材スタッフもレクチャーを受けながら淹れてみましたが、また違った味わいに、そして美味しくできました)

向井:やっぱり淹れた人の個性が出ますね。コーヒーはつくり手の込めた思いが味に出るもの、とも言われます。

岩野:その人の気持ちや内面が出る気はしますね。

―実際に飲み比べてみて、その意味がわかった気がします。

向井:こういう飲み比べは楽しいですよね、いろいろな発見もあって。
基本的に、苦味やコクを強くしたい時は、粉から成分がしっかり出るように、粉を増量して粒を細かくする、お湯の温度を高めにして注ぐ時間を長くする。すっきりさせたい時はその逆です。この事をふまえていろいろ試してみてください。

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岩野:どれも違う味で、どれも美味しくて。僕がコーヒーの魅力だと思っている、抽出する人によって味が変わるという部分が、より明確になって面白かったです。ペーパードリップならではの楽しさと言えますね。

向井:ペーパードリップは、より個性を出しやすい淹れ方なので、ぜひ皆様にもチャレンジしてみてほしいです!

ちなみに、コーヒー豆を買う時に美味しい淹れ方を尋ねるのもおすすめです。私の経験では、淹れ方を喜んで説明してくれるお店は、コーヒー豆の質も高いです。良質な豆と、丁寧な淹れ方が合わさると、最高の一杯になります!

―とても勉強になりました。ありがとうございました!

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撮影場所:ホライズンラボ 表参道

群馬県の拠点から移転して昨年12月にオープンした、岩野さんの焙煎工房兼ショップ。巨大な焙煎機が目をひく無機質な空間は、さながらファクトリーの趣。店内では、岩野さんが焙煎した豆の他、岩野さんのご両親が手掛けるアパレルブランド〈HAMON〉のコレクションも販売されています。

ホライズンラボについてはこちら>>

おわりに

同じ豆でも、味の違いが大きく出ることに驚きました。そしてコーヒーについて語るお二人の楽しそうな姿もまた、印象的でした。知れば知るほど深いコーヒーの世界、あなたも極めてみませんか?

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