【新宿店】4F一杯の珈琲商店 【コーヒー対談】粕谷哲バリスタ・岩野響さん対談 拡がる二人の世界 ~後編~

こんにちは。
新宿店4F「一杯の珈琲商店」店主の向井です。
前回に引き続き2016年にコーヒー抽出の腕を競うブリュワーズカップで世界チャンピオンに輝かれた粕谷哲バリスタ、17歳という若さでコーヒーの焙煎人として活躍されている岩野響さんの対談企画の後編をお送りします。
今回はコーヒーに留まらない表現方法についても、お二人の共通点が飛び出します。

前編記事(←https://hands.net/hintmagazine/staff/kitchen/4f-10.html

コーヒーの味に出る、お二人の個性とは?
 
○前編に引き続き、粕谷哲バリスタの新作コーヒーをお二人それぞれの方法で淹れていただきました。
先ほどの抽出よりもリラックスした雰囲気の中で、お二人のコーヒー抽出が進みます。

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向井:お二人ありがとうございました。
早速いただきましたが、おいしかったです。
それでは粕谷バリスタの新作コーヒー「エチオピアの深煎り」、感想はいかがでしょうか?

お客様:おいしいですね。
粕谷さんが淹れた方が、「フルーティさが華やか」にでていて、
岩野さんの方が、「柔らかい感じ」がしましたね。

向井:質感も違いますよね。
それでは粕谷さん、感想をお願いします。

粕谷:大分味の出方が違う感じですね。
岩野さんの方が自分の抽出よりフルーティな印象が強いです。
焙煎士の狙いという面では、多分適正なやり方です。
味づくりのピークをどこに持ってくるかという面では、岩野さんの方が「フルーティさが前」にでて、自分の方が「苦味は前、フルーティさは後」にでている感じです。

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岩野:豆の時点ですでにいい香りですよね。この豆。粕谷さんはこういう味になるんですね。
同じ抽出する人によって味が変わるのが、やっぱり面白いですね。

粕谷:どっちの淹れ方が正解、というのではないと思います。
抽出したコーヒーを通じてその人が見えますよね。
岩野さんは自分を持っている感じが強い。コーヒーに。
僕の方が、柔軟かも。(笑)
そういうのはコーヒーにでてくるのかも。写真に近い。

お二人の意外な共通点・写真

向井:ちょうど今写真の話が出ましたけど、岩野さんが今、コーヒー以外の新しい表現方法にもチャレンジされているとのことで、お伺いできればと思います。
岩野さんインスタグラムに撮られた写真をアップされていますが、どのような思いで表現されていますか?

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岩野:写真って、実はコーヒーよりも歴が長いんです。ずっと趣味で。最初はフリーマーケットで買ったフィルムカメラから始めました。
写真は、時間が他のものづくりと違って、気軽に誰でも撮れて、自分の視点、自分らしさをつくれる、現実を撮る機械なので、そのときの気分がはっきりとでてくるので好きですね。

向井:季節のコーヒーでは、写真とともに、詩も添えて発表されていますよね。

岩野:詩はコーヒーをつくるときのテーマでもあるので。
「季節のコーヒー」は、詩と写真と豆をセットで売っているんです。
いろんな要素が合わさってコーヒーなり、ものは成り立つと思っているので、こういう要素が加わると面白いかなあ、と思いながらやっていますね。

向井:先ほどのコーヒーの話題と同じく、「私は、これは分からない」と構えてしまう方もいらっしゃるかもしれません。
そのような方へのアドバイスはありますか?

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岩野:構えずにとらえていただければと思います。
僕はコーヒーをはじめものづくりするときは、既存のものにいかに新しい視点を足せるか、と考えながらやっているので視点の一例として気軽に見ていただければいいのかなぁ、と思います。

粕谷:実は僕もカメラの方が、コーヒーよりも歴は長いんですよ。
カメラマン志望だったぐらい。(笑)

岩野:やっぱいいですよね。写真を撮るの。

粕谷:いい。凄くよい。最近コーヒーばっかりになっちゃっていますけど。
 実は前職のIT企業を退職した最も大きな理由は、「イギリスにあるカメラ学校に通いたい」みたいなことがあったんです。いろいろあってバリスタになっていますが。

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一同:!(驚き)

向井:あら、びっくり!写真をされている岩野さんとの対談ならではの話題ですね。

岩野:僕も写真が好きで。現実なのに、撮る角度によって大分非現実的にもなって・・・
同じ写真でも、現実しか撮らない人、決定的瞬間を狙う人など、ジャンルによってさまざまですし。日本語では「真実を写す」と言っておきながら、海外では「photography」(光画)と言ったり・・・

粕谷:日本語で「真実を写す」と言っておきながら、視点によって真実も変わるんだな、という解釈ができる、だとか。面白いですね。カメラの距離感が、人との距離感を表しているようにも思えて。
結構人柄が出るじゃないですか?カメラって。それが、「コーヒーと一緒だ」って思っているんですよ。
こういう話はホントに面白い。

岩野:カメラについてはいつまでも熱く語れてしまって、危険なんですよ。(笑)

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向井:粕谷さんが撮られた写真も、1度拝見してみたいですね。

粕谷:頑張ります!(笑)

一見異なるものづくりも、同じ想い。

向井:さて、お店に素敵なお洋服が沢山並んでいますが、岩野さんデザインのコートを粕谷さんにぜひ試着していただきたいそうですね。

粕谷:ぜひ着てみたいですね。びっくりしましたよ!いきなりコートをリリースして。(笑)

○岩野さんおすすめのコートを、粕谷バリスタが試着します。

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岩野:3種類のコートをつくったのですが、全部形が一緒なんです。パターンも縫製も生地もすべて一緒なんですが、ワンポイントのディテールだけ変えて、印象をガラリと変えられたら面白いなあと。

粕谷:(コートに袖を通して)凄い!なんか、恥ずかしいですが・・・
服をつくるって凄くないですか?人生の中であまりないですよね。
洋服をつくるのも、写真もコーヒーも一緒にやる理由を聴きたいです。

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岩野:僕は、自分をもののつくり手側だと思っています。
コーヒーも服も写真も、一つの「ものづくり」という大きな枠組みの中で見ているんです。
 ではものをつくるときにどういう視点でやるかとなったときに、いかに既存のものをバラして、自分らしくつくり直せるか、みたいなところでものづくりをしているんですよ。
 例えばホライズンラボのコーヒーがなぜ深煎りかというと、コーヒーのイメージとして深煎りが強いので、その中でなるべく今まで飲んだことが無いようなコーヒーを「オリジナルでつくって行こう」という感じでやっています。
 洋服の方も、今回シリーズとして3つ作ったのですが、このコートはすでに完成品として存在していて、そこをちょっと足すだけで、「いかに今まで無かったものにできるか」「新しい服の着方というものを提案できたら」ということで今回つくらせていただきました。

向井:新しい服の着方・・・!

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岩野:そうですね。洋服って既に出尽くしているじゃないですか?その中で、「コーヒーや 写真から着想をえる」とか、「混ぜ込んだり」とか、というような「面白い・新しい角度から服がつくれるか」というので服をつくっていたりとか。
 逆に、一見全く関係のないジャンルだと思われるんですよ、コーヒーとか服とか。組み合わせへの疑問の声もあるかもしれませんが、僕はそれをやることによってコーヒーというものがさらに「自分の中で深く拡がっていくのではないか」「新しいものがつくれるのではないか」ということでチャレンジしている感じですね。

向井:岩野さんの中で、ものづくりという一つのテーマの中で、さまざまな挑戦から深く広く経験を積まれて、それが「コーヒーにも循環していく」そういう風に感じました。
そしてその根っこには、「まずやってみよう」という姿勢があるのですね。

岩野:そうですね。何気ないことだからこそ、コーヒーを淹れること自体が、「一つの表現として成り得る」なと思っています。日常でそこまで難しく考える必要はありませんが。(笑)
一つの自己表現のツールとして、コーヒーを淹れることを「みなさんに広めていけたらな」と思っています。


粕谷:面白いですね。やっていることの見え方は違いますが、頭の使い方は一緒だよね。

岩野:僕もそう思います。

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粕谷:僕もまったく同じですよ。キャリアから見たらITコンサルタントからバリスタと異色とよく言われますし。でも自分の中ではやっていることは「変わらないな」と思います。(笑)
 表現されたアウトプットの形違いますが、そこに至るプロセスはあんまり変わっていない、と思っています。ですから、聴いていて「そうだね!」と。(笑)

お二人の想い出に残る一杯とは?

向井:楽しいお話であっという間ですね。
それではここで、本日お集まりいただいたみなさまからご質問と感想を伺います。

お客様:質問です。二人が想い出に残っている一杯を教えていただけますか?

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岩野:僕は、悩んでいる時期があったんですが、そのときに出会った地元群馬のコーヒー屋さんで飲んだカフェラテ。焙煎という言葉も知らないぐらい何もコーヒーについては知らない時期だったのですが、本当においしかったです。今でも想い出します。
おいしいし、独創性があったんですよね。深煎りとも言えない、曖昧なニュアンスを感じるコーヒーでした。今回いただいた粕谷さんの豆のような感じで。その店でおしゃべりして過ごしたので、心情的な要素も混ざったからこそ感じたのかも知れません。

向井:「純粋においしい」ということに加えて、ご自身の心にも届くコーヒーだったのですね。私も飲みたくなりました。(笑)

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粕谷:色んなコーヒーを想い出していましたが、一番は、エチオピアで飲んだ自分が優勝する前年度の世界チャンピオンが淹れたコーヒー。おいしかったというのもありますが、ちょうど世界大会の半年ぐらい前で、圧倒的な旨さに絶対に勝てないって、気づかされたあの一杯。あれで自分の実力のなさ、レベルの低さを痛感して、勝てるチャンスを得たって、思ったんですよ。
あれを飲んでいなければ、自分の本当の実力を知らないまま世界大会に行って惨敗していたはずです。でもそこでトップの中のトップを知ったことで自分はこのままでは勝てないと知れたから、「これで僕は勝てると思います」とその場に連れて行ってくれた方に話したのを覚えています。地図を手に入れた、みたいな感じで、僕にとって転機になった一杯ですね。ほっこりする話じゃなくてすいません・・・。(笑)

お客様:今日の感想として、コーヒーについて深く知らないとおいしいコーヒーが淹れられない、と思っていましたが、「こうしなければ」にこだわらずに「そのときにあわせて自分らしい一杯を楽しめばいいのだ」と知って安心しました。

粕谷:そう思ってもらえて嬉しいですね。

岩野:そうですね。

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粕谷:コーヒーの世界にはマニアの人たちが多くいるので、「その人たちのやり方が正しい」みたいな感じがあるじゃないですか?「そうではなくていいよね」ということが伝わってよかったなと思います。「ある視点に立てば正しい」「別の視点に立てばそうじゃない」そういう点が嗜好品のよさだと思いますし。

向井:ご回答ありがとうございました。最後にお二人に、この時間振り返ってのご感想をお伺いします。

粕谷:前回から1年以上経ちましたが、岩野さんは「そのときと全く印象が変わらないなぁ」と思いました。

岩野:僕もそう思います。(笑)最初の対談のときに「粕谷さんはこんなにも柔軟な方なんだ!」と感銘を受けました。今日お話して、「より柔軟さがさらに・・・」と思いました。

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粕谷:逆に岩野さんは、「軸がすごく太くなってきている」そういう印象がすごく強くなってきていると思いました。今17歳ということで、その年ごろの1年強って、結構僕らの1年とは違うじゃないですか。だから・・・、「ちゃんと育ったな!」って(一同爆笑)

向井:親戚の叔父さんですか!

粕谷:そんな感じですよね。(笑)
1年に1回会うって、そういう感覚で見ちゃうというか。
 変に柔軟にならず、自分の想っていることをちゃんと太くしていっている、のがすごくよかったですね。いろいろやっても「プロセスはいつも一緒だ」というのを持っているのが。

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岩野:大丈夫ですか?こんな感じで育ってしまいましたが・・・(一同爆笑)
 前回同様、またお目にかかれているというのはご縁だと感じます。
ここに集まっている3人の軸は変わらないけど、かなり進化できている感じはして、「面白いなあ」「勉強になるなぁ」と思いました。

向井:前回の対談でも感じたことですが、岩野さんの話は、人の話からの引用が全くない、全部自分の実体験に基づいている点が、改めて凄いと実感しました。
そして、粕谷バリスタの柔軟さ。そこに尽きると思います。
引き続き東急ハンズ新宿店ではお二人のコーヒーの品揃えはもちろん、その魅力を発信していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

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お二人のコーヒー豆は東急ハンズ新宿店にて取扱をしております。

粕谷哲さんのお店「フィロコフィア」(←https://philocoffea.com/

岩野響さんのお店「ホライズンラボ」(←https://www.horizon-labo.com/

営業日・営業時間については、それぞれのお店のWebサイトにてご確認ください。

対談日:2020年2月22日
写真:栃久保 誠
文責:向井(『一杯の珈琲商店』店主)

新宿店4F 一杯の珈琲商店

珈琲を実際に挽くこともできるのでぜひお越しください。本当は鉄道が好きなのですが、そこにはあまり触れないでください。

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