【連載】シューケアマイスターの「あの人に会いたい!」vol.1 靴磨き世界チャンピオン 長谷川裕也さん編

ハンズのシューケアマイスターが、靴にまつわる「あの人」に会いに行く連載企画がスタート!聞きたかったこと、知りたかったこと、ずっと思っていたこと等々、よりマニアックに深掘りしてトークを展開します。記念すべき第1回目の今回は、シューシャイナーの世界チャンピオンである長谷川裕也さんを訪ねました。

※シューケアマイスターとは:「一般社団法人 日本皮革製品メンテナンス協会」が主催するシューケアマイスター試験に合格した、知識とスキルを兼ね備えたシューケアに関するスペシャリストのこと。
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世界チャンピオン登場の初回!どんなトークが展開されるのか!?

今回のホストとなるハンズのシューケアマイスターはこちら!

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ハンズ横浜店 シューケアマイスター 高須

そして、記念すべき連載第1回目のゲストはこの方!

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株式会社BOOT BLACK JAPAN 代表取締役 長谷川裕也さん

ー新たに始まったシューケアマイスターの連載企画。今日は記念すべき第1回です。よろしくお願いします!

長谷川さん・高須:よろしくお願いします!

―ではまず、長谷川さんの紹介を高須さんからしていただけますか?

高須:シューケアマイスター資格試験を主催する「一般社団法人 日本皮革製品メンテナンス協会」の理事で、2017年に行われたシューケアの世界大会の初代チャンピオンであり、こちらの靴磨き専門店〈Brift H(ブリフトアッシュ)〉のオーナーでもある、靴磨き界の第一人者です。

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今回の対談は、長谷川さんがオーナーを務める靴磨きの店、表参道の〈ブリフトアッシュ〉店内で行いました。

長谷川さん:高須さんとは、なかなか直接お会いする機会がなくて。実は昨年、横浜店でイベントが決まっていたんですが...。

高須:ギリギリで中止になってしまったんですよね。

ーでは今回は満を持して、という感じですね。

高須:はい。すごくワクワクしています。

ー高須さんにとって、長谷川さんはどんな存在ですか?

高須:雲の上の存在です。たまたまハンズでシューケアマイスターになり、そのつながりでこうしてお話しをさせていただけているので、夢のような感じです。

長谷川さん:いやいや、大袈裟です(笑)

高須:長谷川さんの著書『靴磨きの本』でもかなり勉強させていただきました。

長谷川さん:5年前に出した本ですが、ハンズさんでもかなりの数を販売していただきました。

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長谷川さんが手にしているのが『靴磨きの本』。〈ブリフトアッシュ〉の店内にも置いてありました。

ー長谷川さんとハンズには、どんな関係性があるんでしょうか。

長谷川さん:ハンズさんが「シューケアマイスター」を社内資格として創設した時から関わらせていただいていて、第1回試験の審査員もやらせていただきました。第2回からは日本皮革製品メンテナンス協会管轄の資格になり、現在は第3回まで行われましたが、実はハンズさんの独自試験だった第1回の難易度はめちゃめちゃ高かったんです。

―高須さんはその難関をクリアした1期生ですね。

長谷川さん: 1回目の試験はものすごく濃密でした。だから、2期生3期生ももちろん優秀ですが、1期生の皆さんは僕の中でも特別なんです。しかも高須さんは、その1期生4名の中でも特に知識が豊富だったので、とても印象に残っています。

高須:ありがとうございます。うれしすぎます!!!

ずっと聞きたかった、ブラシ選びのこと、お客様との会話のこと

高須:最近、ブラシにハマっていまして、あれもこれも欲しくなっていろいろ買っているんですが、長谷川さんはブラシを選ぶ際にどこをポイントにしていますか?

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長谷川さん:やっぱりまずは、手にしっくり来ることです。見られる仕事なので、小さすぎてもカッコ悪いなとか、そこも意識しますね。あと個人的には、持ち手の先端が靴に当たらないので、毛が持ち手の端ギリギリまであるものが好きです。高須さんはどういうポイントで選んでますか?

高須:持った感覚はもちろん重視しますが、パッと見でひと目惚れしたものもけっこう多いです。長谷川さんの本にも、よい道具を揃えてモチベーションを上げるという話が書いてあったので。

長谷川さん:テンションが上がるやつですよね。男って、そういうところありますからね、形から入るというか。

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高須:今日はそんな私のコレクションの一部を持ってきました。

長谷川さん:いろいろありますね!本来は1本あれば十分な馬毛ブラシも、何本もある(笑)

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―全部で何本くらい持っているんですか?

高須:30本近くあります。どんどん増えています(笑)

長谷川さん:ブラッシングは靴を愛でる動きの象徴だから、自分にとって心地よいブラシを選んで、愛着を持って使ってほしいですね。ちなみにこれは、2〜3年ほど使ったものと、10年ほど使ったもので、同じ豚毛ブラシです。

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右が10年ほど使ったもの。同じブラシだったとは思えません!

長谷川さん:はじめは白い毛だったのが、使い込むうちに黒いクリームによって全体が黒くなり、両端が摩耗して毛が短くなっていきました。

高須:すごい!育ってますね。

長谷川さん:育ちすぎてもう使えませんが(笑)。でもここまでとは言わなくても、使い込むと愛着も湧いてくると思います。

高須:では別の質問をさせてください。ワックスを塗るときの力加減のことが聞きたくて。お客様には「弱く、やさしく」という話をしてお客様の手の平で力加減を見せたりするんですが、実際にこれでいいのかという疑問があって。

長谷川さん:どれくらいの加減でやってますか?

高須:こんな感じです。

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長谷川さんの手の平で指をクルクル。

長谷川さん:ばっちりですよ。ちなみに僕の本の中では「ATMのボタンを押すくらいの力」と書いています。スマホじゃなくてATM。

高須:それを参考にさせていただいています。よかったです、確認できて。しかも長谷川さんの手の平で確認してもらえるなんて恐縮です。

長谷川さん:動画とかだと、わからない部分ですもんね。

高須:もうひとつ聞きたかったことがあるんです。対面のカウンタースタイルで靴磨きをされていますが、お客様とはどんな話をされるんですか?

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長谷川:僕が何か喋るというよりは、話を聞く感じが多いです。でも僕はけっこう深いところまで聞きますよ。グイグイと深いところまで入り込んで(笑)

高須:(笑)

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長谷川:1時間ほど対面でいると自然と深い話になるんです。この靴を何で磨きに来たのかという話に必ずなり、就職したときに買った靴なんですといった思い出話になったり、そこから仕事の話になったりで、パーソナルな話になりやすいんですよね。

高須:わかる気がします。

長谷川:靴磨きのよいところって、そこだと思うんです。路上で靴磨きをしていた時代もそうでしたが、身内でも仕事相手でもない関係性だからこそ話してくれることがあって。高須さんは普段、お客様とどんな話をされるんですか?

高須:私はやっぱり、お手入れ方法のアドバイスですね、聞かれることが多いので。手順を説明して、何でこれをやるのかとか、ここはしっかりやった方がよいとか。

長谷川さん:そうですよね、基本的に買い物に来ているから、僕のところのお客様とは目的が違うし。買い物と合わせてアドバイスも聞けるのが、ハンズさんならではの魅力ですね。

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〈ブリフトアッシュ〉のオリジナルアイテムにもこだわりが満載

―話は変わって、〈ブリフトアッシュ〉のオリジナルアイテムを、シューケアマイスターがいるハンズ全店で販売するようになるんですよね?

高須:はい。これまで新宿店と横浜店のみだったんですが、販売店舗が拡大されました。こちらが主なラインナップです。
※店舗によって取り扱い商品は異なりますが、シューケアマイスター在籍店舗のみで販売しています。
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ブリフトアッシュ
クリーナー(ストロング・ソフト)各2,200円(税込)
クリーム(全11色)各3,630円(税込)
クロス(磨き用)1,100円(税込)
クロス(汚れ落とし用)770円(税込)
※一部店舗のみでのお取り扱いです。

長谷川さん:オンリーワンのポイントは化粧品会社がつくっているところです。これってけっこう大変なことなんです。本来なら化粧品会社が靴クリームなんて絶対につくらないので。

高須:どうして化粧品会社でつくったんですか?ずっと気になっていました。

長谷川さん:以前、某シューケア用品会社に勤務されていて、現在は独立されているベテランシューシャイナーの方が「化粧品会社が靴クリームをつくったら、すごくよいものができる」と言っていたのがずっと頭に残っていて。「靴クリーム会社が使える原料は限られているけど、化粧品会社はもっといろんな原料を使える」と。だからオリジナルをつくるなら絶対に化粧品会社でと決めていたんです。

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高須:そういう経緯があったんですね。実際に使用すると、こだわりを強く感じます。

長谷川さん:クリームは28種類の成分をブレンドしていて、シアバターやスクワランなどの革に潤いを与える成分がたくさん入っています。あとは使い心地。表面に残らず、革の素のよさを引き立たせる、その部分にはこだわりました。

高須:開発はかなり大変だったんじゃないですか?

長谷川さん:完成までに3年ほどかかりました。塗った後のベタつき感を解消するのが大変で、途中で諦めかけてストップしていた期間もありましたが、2014年にようやく販売にこぎつけ、おかげさまでプロの方にもご好評いただいています。

高須:ラベルにある「Made by Shoeshine Man」の文字も目をひきますね。僕が靴磨きを始めた17年くらい前って、磨く人の目線でつくられた商品があまりなくて。

長谷川さん:靴磨き屋の目線で靴磨き屋がつくる、そんなアイテムをつくりたかったんです。たとえば磨き用のクロスも、一般的なものはハンカチみたいな形状ばかりですが、それだと一日中磨いている人間からするとすごく使いにくいんです。なので、指に巻き付けられる細長い形状にしました。

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高須:たしかに最近はこのサイズや形状が多いです。長谷川さんが先駆けだったんですね!

長谷川さん:ちなみに指先を濡らすのにハンドラップを使ったのも、おそらく僕が初めてです。だから僕は「靴磨きver.2.0」をつくったと自負しています(笑)

高須:せっかくの機会なので、ハンズのオリジナルアイテムについての感想もいただけますか?

長谷川さん:ハンズオリジナルはひと通りチェックしていますが、中でもこの〈ポリッシュクリーナー〉は画期的でした。

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コロンブス×ハンズ ポリッシュクリーナー 1,650円(税込)

高須:コロンブスさんとのコラボアイテムですね。

長谷川さん:コロンブスさんの純正品と違って、これはクリームが固形だから扱いやすくて。ウチの商品でも真似させていただきました(笑)

高須:真似されるなんて光栄です(笑)

長谷川さん:あと、このブラシもよいですよね。握りやすさを計算した形状が素晴らしい。ハンズさんのオリジナルアイテムは、使い心地や使いやすさといった視点からもよく考えられているので、すごく好印象です。

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コロンブス×ハンズ デリケートブラシ 山羊毛 3,465円(税込)

靴磨きを日常に?シューケアの理想の未来と野望、そして使命感

―お二人にとって「靴磨き」とはどんなものですか?

高須:やっていると楽しくて、磨いている間は何も考えなくてよいし、気持ちも落ち着く、そういうものです。もちろん仕事ではありますが、半分は趣味というか。自分のモチベーションを上げるものですね。

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長谷川さん:僕には変な使命感があって、勝手に靴磨き業界を背負っていると思っています。みんなの靴がキレイになったら、日本はもっとよい国になると思うんです。歯を磨いてから出かけるのが当たり前なように、ピカピカの靴で出かけるのが当然という文化をつくって、何十年後かに日本に来た外国人が「日本人はみんな靴がキレイ」と思ってくれたらなと。そしてそのルーツを辿ったら長谷川という男がいた、という存在になりたいんです。その野望のためには何でもやりますよ。だから靴磨きは、僕の人生すべてと言っても過言ではないです。

高須:ものすごく壮大な目標で脱帽です。でもずっとそうやって発信されてますもんね。

長谷川さん:僕のテーマは「世界の足元に革命を」ですからね。そのためにこの世に生を受けたと勝手に思っています(笑)

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高須:靴磨きが歯磨きと同じ感覚になれば、シューケア用品が日用品のようになって、シューケア用品売り場にも気軽に来ていただけるようになりますね。素敵な未来です。

―では最後に、まずは高須さんから、靴磨きを始めてみようかな?という方へメッセージをお願いします。

高須:敷居が高いイメージがあるかもしれませんが、思ったより簡単なので気軽に始めてみてください。迷ったらハンズを利用していただいて、そして声を掛けていただければ答えられる店員がいますので、まずは最初の一歩を踏み入れていただきたいです。

―では長谷川さんからは、シューシャイナーを目指している方にメッセージをお願いします。

長谷川さん:「継続は力なり」ですね。華やかに見えるところもあるのか、シューシャイナー志望の方も以前より増えましたが、作業は地味ですし、ビジネス的にも決して楽ではないです。でも、続けていくと頼られるようになって、すごくやりがいのある仕事なので、途中でくじけずに続けていってほしいと思います。

高須:今日はじっくりとお話が聞けて、願いが叶いました。ありがとうございました!そしてこれからもよろしくお願いします。

長谷川さん:こちらこそ。歯磨き粉を買うように靴クリームを買いに行く世の中づくり、一緒に頑張りましょう!

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おわりに

今回から始まった連載企画、シューケアのマニアックトークはいかがでしたか?次回は何店のシューケアマイスターが、どんな人を訪ねてお話を聞くのか。
どうぞお楽しみに!

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