「文具沼」という言葉を、あなたは聞いたことがありますか?文具の魅力にすっかりハマり、抜け出そうにも抜けられない...むしろ抜けたくない、という状態を「文具沼にハマる」といいます。
この連載は、文具沼にハマったスタッフの一人であり、文具の中でも特にロングセラーの定番モノを愛してやまない、事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを楽しく、深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語です。
変わらないことのよさを事務用品系の定番文具に見出す大瀬バイヤー
ここはハンズ本社。今回は、新たに「文具沼連載」が始まるということで、まずはこの記事の主役である事務用品バイヤー大瀬をご紹介します。
文具沼にハマっている人のデスクは一体どういった感じなのか気になった取材スタッフは、大瀬の席に突撃することにしました。
―あ、いたいた、大瀬さん、こんにちは!
大瀬:あらあら、こんにちは。どうしたんですか?
事務用品バイヤー 大瀬。大学生時代はウェイトリフティングに励んでいたらしい。
―(いきなり行ったのに全然動じないな...。)いや、文具沼にハマった大瀬さんのデスクだから、きっと素敵な文具があちこちに転がってるんじゃないかなと思って来ちゃいました。
大瀬:なるほど、ただ、私が特に好きなのは昔からずっとある、事務用品系の文具だから、見た目のインパクト的にはあまり面白い感じじゃないですよ?
―あ、そうなんですね。確かに〈マジックインキ〉とか懐かしい!...ん?それはカレンダーですか?
大瀬:いえ、これはカレンダーアイテムに関するメモや打ち合わせ内容をまとめた「ノート」です。私はカレンダーのバイヤーでもあるのでね。
―カレンダーと書かれた、普通のノートなんですね...。って、そのノートは〈ツバメノート〉じゃないですか。そちらもまたロングセラーアイテムですよね。大瀬さんはなんでそんなに定番の文具が好きなんですか?
大瀬:話すと長くなるかもしれないので、ちょっと場所を変えましょうか。ではこちらに。
―わざわざありがとうございます。
大瀬:お気になさらず。で、なぜ私が事務用品系の定番文具が好きかというと、「変わらないから」なんです。例えば私はこの〈マジックインキ〉が大好きで、細かいところは若干変化というか改良しているのかもしれませんが、基本的には変わっていないんですよ。私が子どもの頃からあって、今でもその時からほとんど変わらずに世の中にある。それって、ものすごいことだと思うんですよね。
寺西化学工業 マジックインキ 大型 120円+税
―確かにそうかも。
大瀬:油性ペンのジャンルでも、ほとんどのアイテムは太字と細字が書き分けられるようになっているし、他にも様々な個性を付け加えてくる中、今でもなお「ザ・太字!」みたいな感じで我が道を突き進んでいますし、それでいて油性ペン業界で光を放ち続けているのが格好いいと思うんです。
―この古きよきパッケージデザインも健在ですしね。
大瀬:そうなんです、このハテナマークがいい味を出していますよ。これもずっと変わらないですしね。
―普段の仕事の時も使っているんですか?
大瀬:はい。使っているとふとインクのにおいが香ってくるのですが、文化祭を思い出しますね。
インクの香りを嗅ぐ大瀬
―...文化祭?
大瀬:学生時代、うちのクラスでは文化祭で喫茶店をやることになったんですよ。それで、〈マジックインキ〉でメニュー表や、ポスターのキャッチコピーなどを書いていたんです。いやあ、懐かしい。
―素敵な思い出...!ちなみに事務用品系の定番文具が好きになったきっかけは何だったのですか?
大瀬:もう25年くらい前の話になるのですが、私はその当時、横浜店のスタッフとしてワープロと収納用品の担当をしていたんです。
―ワープロ...時代を感じる...。
大瀬:その頃の私はワープロを触ったこともなかったんですけどね。で、1歳年上の先輩がいて、その方がものすごく事務用品に詳しかったんですよ。売場に並ぶ商品として私も事務用品のこともある程度は理解しないといけなかったんですけど、見た目からではそれぞれの商品特性が全然わからないんですよ。今でこそ個性的なものも出てきていますが、その当時の事務用品って似通ったものばかりで。このステープラーとあのステープラーは何が違うの?みたいな。
―いかんせん事務用品ですからね...地味というかなんというか...。
大瀬:それでわからないことがあったら先輩に都度聞いていたのですが、いつも即座に答えてくれて。そんなやりとりをしている間に「事務用品の文具って面白いな」と思ったのがきっかけです。学生時代の話のように、それまでも定番文具を使ってはいましたが、改めてその存在を見直したのは先輩のおかげだったと思います。
松岡修造さんの言葉に励まされる大瀬バイヤー
―デスクには〈マジックインキ〉の他にも定番の文具がありましたよね、「カレンダー」と書かれた〈ツバメノート〉とか。
大瀬:ええ、〈ツバメノート〉も大好きな定番文具の一つで、こちらも「変わらない」ことが一番の魅力だと思っています。
ツバメノート A5 50枚 220円+税
※実際の商品には「カレンダー」と書かれておりません。
―〈ツバメノート〉はいつから使っていたのですか?
大瀬:大学生の時に、「大学で使うノートといえば〈ツバメノート〉しかないでしょ。糸綴じ製本だから丈夫なんだよ」って言われて使い始めました。
―おすすめポイントに糸綴じ製本を持ってくるあたり、その方もなかなかマニアックですね。友達に言われたんですか?
大瀬:それは忘れちゃった。
―(覚えてないんだ...)。具体的にはどういったところがお好きですか?
大瀬:紙質やデザインなど色々ありますが、一番好きなのは「罫引き」という昔ながらのアナログな手法で罫線を引いているところですね。もう渋くて格好いいんですよ。
―罫引き...初めて聞きました。
大瀬:一般的なノートは「オフセット印刷」という、ローラーを使って紙に油性インクをのせる手法を使うんですよ。印刷がとても早く、それでいて確かな品質も担保できるという大量生産に適した特徴を持っているので、現代のスタンダートな印刷手法なんです。
一方で罫引きは、楽器の弦のようなものが一定に並んでいる専用の機械に水性インクを補充し、紙に線を引いていきます。油性インクとは異なり、紙に水性インクが染み込んでいくので、凹凸がないのがポイントです。
―でも、オフセット印刷を使っているであろう他のノートでも、そんなに凹凸を感じたことはないですよ?
大瀬:オフセット印刷も優秀なので、確かに普段何気なく使っている時にはそれほど凹凸を感じないかもしれません。ただ、たまにこう、書いていると何か「引っかかり」があるように思うことがあるんです。本当にごくわずかな違和感なんですけど。特に万年筆を使っているとそう思うことが多いのですが、〈ツバメノート〉だと引っかかりを感じることなく、いつも一定した、心地よい書き味を楽しめるんですよ。いまやコストや効率の面で罫引きを採用しているところは決して多くありません。ただ、なくなって欲しくない技術だと思うので、精一杯応援したいと思っています。
―大瀬さんの静かな情熱が伝わってきます。
大瀬:情熱という面ではこちらも好きです。定番の文具ということではありませんけど。
日めくり「まいにち、修造!」 1,000円+税
―松岡修造さん...!?
大瀬:修造さんの熱い熱い31の言葉+スペシャルメッセージが載っている日めくりカレンダーなんですけど、私はあまり日めくりカレンダーとしては活用していなくて(笑)。仕事で疲れた時に好きな言葉を見てもうひとふんばりするために、いつもデスクに置いています。
―特にどの言葉がお好きなんですか?
大瀬:「不平や不満は、心を後ろ向きにさせるポイズン」です。
―「不平や不満は、心を後ろ向きにさせるポイズン」...!
大瀬:いやもうその通りだなと思って。で、4〜5年前、長野店で働いていた時にこのカレンダーが販売されて、それはそれはよく売れていたんです。でも私は普段あまりテレビとか見ないので、修造さんのことをあまり知らなくて。それで調べて動画とかを見たら、ああ、こういう方なんだ。そりゃあ売れる訳だと思った記憶があります。
―この方の情熱は相当なものですもんね。
大瀬:「不平や不満は、心を後ろ向きにさせるポイズン」...、うん、やっぱり素晴らしい言葉だなあ。明日からもがんばろう!
趣味は居合道と杖道の大瀬バイヤー
―ちなみに大瀬さんはテニスはしないんですか?
大瀬:いえ、しないですね。スポーツは居合道と杖道を嗜んでいます。
―...え?
大瀬:どうしました?
―あ、いや、なかなか予想外のスポーツだったので。杖道にいたってはどういうものかさえよくわからないし...。
大瀬:簡単に言えば杖を使った武道です。剣道と居合道と合わせて「三道」と呼ばれてもいます。
―...どういった経緯でそれらをするようになったんですか?
大瀬:もともと剣道をやっていたのですが、歳を取って体力がなくなり、動くのが辛くなってきたんですよ。それで、わずかな動きで済む居合に転向したんです。銀座店勤務の頃から始めたのですが、長野店に異動になり、そこには居合の道場がなかったんですよ。長野から東京に通うのもしんどいし、どうしようと思っていたら、杖道を指導している方がいることがわかったんです。色々な武道や格闘術に精通していて、その一つとして杖道もやっているという。で、その方に学び始めました。
―エピソードが濃い...。居合道とか格好いいですよね。型とかちょっと見せていただけませんか?
大瀬:ごめんなさい、師から「まだ未熟だから人前で見せるな」と言われてまして...。
―あ...すみません。ところでさっきから気になっていたのですが、それは何ですか?
大瀬:メジェド様のことですか?
すばらしきFUSEN 30枚入 各380円+税
―メジェ...え?
大瀬:エジプト神話に登場する神様、メジェドです。そしてこちらは、メジェド様などエジプトの神々をモチーフとしたありがたい付箋なんですよ。
―...なるほど。メジェド様とはどういった神様なんですか?
大瀬:私もよくわからないんですよね。
―わからないんですね。
大瀬:メジェドは「打ち倒す者」という意味なのですが、エジプトの神様なのに現地ではほとんどその存在を知られていないらしく、正体もあまり明らかになっていないんですよ。魚の一種という一節もあるくらいで。でも私はこのなんとも言えないかわいらしさが好きでよく使っています。他にこの付箋を使っているスタッフがいないから、メジェド様の付箋=大瀬という認識が社内で広まっているようですね。
―なぜメジェド様が好きなんですか?
大瀬:あらゆるキャラクターの中でトップクラスのシンプルさだからです。時代に流されず、着飾らない感じが好きなんですよね。
―そもそも時代に流されるような古代の神様はいないと思うけど...。でも、〈マジックインキ〉や〈ツバメノート〉、ひいては松岡修造さんもそうですけど、自分の道を信じて突き進んでいく感じがお好きなんですね!
大瀬:そうかもしれませんね。昨今は何かと「変わる」ことのよさが強調されたり、変わらないとダメみたいな風潮もあったりしますが、「変わらないこと」だって同じくらい大切なんです。新しいものと同じくらい、当たり前のように身近にあるものも愛し続けていって欲しいという思いを込めて、事務用品系の定番文具にある、変わらない魅力にスポットライトを当てた連載にしていきたいと思います。そして定番文具の奥深さを知った頃にはきっと、私と同じように、文具沼にハマっていることでしょう...ふっふっふ。
―なんでちょっとホラー調なんですか(笑)。
おわりに
ハンズ歴29年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、様々な文具の魅力に迫る連載記事。初回は大瀬の愛用文具についてご紹介しました。次回はこの記事でもご紹介した〈ツバメノート〉さんに大瀬が突撃インタビュー。罫引きの技術や紙へのこだわりなど、マニアックな目線でお伝えします!
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