手帳好きな方の間で「やりすぎ」と言われるほど、たくさんのこだわりが詰まった「ジブン手帳」。今回はその開発者、佐久間英彰さんに手帳の生い立ちからご自身がオススメする使い方を伺ってきました。広告代理店に勤める佐久間さんがなぜ手帳づくりに取り組んだのか、その秘密に迫ります!
「やりすぎ」な手帳の出発点は、小学生時代にあった。
コピーライターでCMプランナーでプロダクトデザイナーという、異色の経歴をお持ちの佐久間さん。
―さっそくですが、よろしくお願いします!まず佐久間さんのプロフィールですが、広告代理店のコピーライターという...?
はい、そうですね。
―手帳の開発者としては、かけ離れたイメージがあるのですが、何かきっかけがあったのでしょうか?
小学校のときに、校長先生と2人で発明クラブをつくったのが、文具に興味を持ったはじめの出来事でした。活動の中で、自分の身の回りのもので一番手に取りやすかったのが文具で、その文具の中にいろんなギミックだとか発明があって。それを見てワクワクしたのが最初ですね。
―そういえば、昔はロケットペンシルとか、いろいろな文具がありましたものね。そこから手帳にはどのようにつながったのでしょうか?
社会人になってからなんですが、仕事が忙しすぎて持っている手帳ではスケジュール管理が全然できなかったということがありまして。私の場合、職業柄、夜に始まる打ち合わせなどもあるのですが、予定を書こうと思っても夜の時間帯の枠がそもそもないんですよね。だったらジブンでつくっちゃえっていうことがきっかけなんです。
―ご自分で手帳のフォーマットをつくられたんですか!
はい。デザインソフトで。もともと理系の人間なので、紙面の黄金比を計算して、1日を24時間で分割するとだいたい一つのマス目がこのくらいの大きさだなとか、項目の0.1ミリまでサイズにこだわったり、どんどんジブン好みに細分化していきました。
―それは、緻密な...
はい。緻密につくったからこそ、その時点で僕にとっての手帳への解が導き出せたんですよね。ですので、今のジブン手帳もそのときにつくったものがベースになっています。もちろん、少しずつ進化はさせていますが。
こちらが「ジブン手帳」のフォーマット。スタートがハンドメイドだったとは驚きました。
―ご自分で手帳自体をデザインしてしまわれたんですね。
はい。でも、こだわってつくったジブン手帳ですが、販売をスタートした2011年はなかなか売れなかったんですよ。でも、一度買っていただいた方は、次の年も出ると思ってくれているじゃないですか。だから、もう次は自費でつくってしまおうと思いまして。
―覚悟がすごいです。
だって、それをしないと買ってくれた方に申し訳ないじゃないですか。だから、次の年は3,000部かな。自分で印刷所と交渉したり、それこそ出来上がったものをハンズさんに売り込みに行ったりもしましたよ。10冊とか自転車に乗せて運んだり...いまとなっては、あの1年があったからこそだと思いますが、次の年からコクヨさんで販売していただけることになったんです。
―今では人気の手帳にそんな時代があったとは知りませんでした。
救いだったのは、最初の年に買ってくださった方の中に本当にコアなファンになってくださった方がいたことですね。SNSで「これは究極の手帳だ」と呟いてくれたり。手帳が好きな方って、本当にこだわりが強いというか、マニアックというか。そういう方が多いんですよ。もちろん私も含めてなのですが(笑)
―それはありがたいことですね。
そういった方々にも、当時から「やりすぎ手帳」なんて呼ばれていましたね(笑)
暮らしに必要な情報を、3つのノートで補完しあう。
―ご自分でフォーマットをつくってしまう時点でやりすぎな気もしますが(笑)、使っている方は特にどの点を気に入ってくださったんでしょうか?
2つあって。この「DIARY」でいえば、一つは、やはり24時間軸っていう、このバーチカルのデザインですね。従来8時から22、23時で終わってしまうところを24時間にしたということ。ここにもこだわりがあって、1日の欄を24時間で均等にしてしまうとページの下までほとんど埋まってしまう。そう考えると0時から7時ぐらいは1マスでもいい。それ以外の時間を2マスにすることで、24時間をこのレイアウトの中で表現しています。
―書き込むことが多い時間帯に多めに紙面を割く。そういう工夫なんですね。
24時間表記のバーチカルスケジュールなので、正確に予定が書き込めます。
そうです。もう一つは人間の行動の基本的な部分を、その下の欄に入れたんです。食事、それから1日の気分など。生活していれば、必ず喜んだり悲しんだりがありますからね。ユーザーさんからも、1日が思い出しやすくなったと言ってもらえました。
―その日の気分や食事は基本だと。
はい、ここはマストかなと思いまして。最初、手帳を作るときに必要な要素ってなんだろうっていうのを、バーッと書き出してみたんですね。そのあと、広告屋の性かもしれないですけど(笑)、課題を全部洗い出して分解したり、グループ分けしたりして。例えば、私の場合、人がおすすめしてくれたお店などをページの空いている場所にメモするんですが、次の週になると見なくなってしまうんですね。それでこれはちょっと手帳に書き込む情報とは違う要素だなとか。それ以外の、1週間という単位の中で必要な要素のみを、このスケジュールの場所に書き込めるようにしたんです。
―情報の役割が違うといいますか。
そうです。他にも自分を強くしてくれる言葉とか、おすすめの本や映画のリストとか。
―なるほど、それが3分冊の構成にもつながっているんですね。
※ジブン手帳は「DIARY」「LIFE」「IDEA」の3つのノートで構成されています。
そうなんです。1年間見られればいい情報、一生引き継ぐ情報、そして時間軸に関係ないメモと。例えば友達の誕生日とかも、日々のスケジュールの余白に書いても忘れちゃうんですよね。だけど、きっと一生引き継ぐ情報になる。そういうときに「LIFE」のノートにまとめて書き込んでおくと。
―確かに。私も確実に忘れてしまいそうです。
それで次の年になったら、この「LIFE」のノートごと新しい手帳に差し替えればいちいち書く必要もありません。
―書く場所がなくならない限り、ずっと使えるってことですね。
あとは日本地図や世界地図のページもあるんですが、これは自分が今まで住んだところや旅をしたところ、もしくは逆に行ってみたいところを書いておくためのページです。例えば、テレビでマチュピチュを見て行きたいなと思ったら書き込んでおいて、まとまったお休みが取れたときに見返して、みたいな使い方もできます。
こちらが日本地図のページ。自分が訪れたことのある場所が一目でわかる。
他にも家系図に遺影を貼るページ、さらにいろいろなパスワードを管理するページなどもあります。
―さすがのやりすぎ度ですね(笑)!
最初に要素を書き出したときに、項目でいったら何百と出てきたんですね。それを、もう一回整理し直したら、大体こういうのが出来上がったんです。
―もう一冊の「IDEA」のノートは、どういう役割のものなのでしょうか?
アイデアっていうと、ちょっとハードルが高そうに見えますけれども、これは、ただ単にノートでして。
―日々のノートということですか?
そうです。何気ないメモ書きだけでも、メモ用のページが少ししかないとあっという間に使い終わっちゃうじゃないですか。あとは、情報の賞味期限っていうのが、メモと手帳は特性が違うなと思っていて。それだったら、あえて分冊にしておいたほうがいいのかなと思ったんですね。
―足りなくなったら追加もできるし、ということですね。
私は前のノートもちょっと見たくなるときがあって。だから「IDEA」のノートを手帳の両サイドに差し込んでいます。
―自分で前に書いたものから、またインスピレーション、情報を得ることもありますもんね。
あとはコクヨさんの技術を使った特別な機能として、ページの四隅に四角のガイドがあるんですけれども、ここをペンでなぞってスマホで撮ったらデジタルデータ化されるんです。だから、例えば4、5冊前の手帳、メモ帳も見ることができます。
―それは、アプリで見ることができるんですか?
『CamiApp』っていう、コクヨさんのスマホアプリです。これは本当にうれしい限りです。
―佐久間さんも実際にデジタル保存しているんですか?
後でどうしても必要になりそうだなと思うときは保存しています。今はスケジュールやメモはスマホでもできちゃうんですけれども、そうは言っても、手を動かすことで自分の脳が活性化されて整理されていくので。やっぱり手書きって大切だなと感じるので、入力は極力、手書きにしようとは思っています。
3.38ミリから始まった、細部へのこだわり。
―手帳の中身については、こだわりが詰め込んであるなと感じましたが、素材や大きさなど、ハードの面はいかがでしょうか。
こちらも、めちゃくちゃこだわりました。まず大きさですけど、大体、会社などで配布される紙ってA4サイズが多いじゃないですか。なので、A4の短辺を基準に黄金比を割り出して長辺の長さを出しまして。結果的にMoleskineと全く同じサイズだったんですけどね(笑)
―あの、ピカソも使っていたという。
そうなんです。そこから、24時間のレイアウトで割ったらという計算をして、この方眼の一つのマスの大きさを決めていきました。
計算を重ね、たどり着いたマス目の大きさ。
このマス目の大きさをベースに、ウィークリーもマンスリーのページもつくられています。
ウィークリーとマンスリーページの比較。統一されたマス目が使いやすさにもつながります。
―手帳の中のマス目の大きさは一緒なんですね。ちなみに、具体的な大きさって...
3.38ミリです。この手帳の最小単位といいますか。
―なるほど。それが導き出された答えだったのですね。
はい。その後、ジブン手帳のミニサイズやBizというシリーズも出しているんですが、そちらにも展開しています。
―違うシリーズでもマス目の大きさは一緒だと。
マス目は同じ。ですが、Bizで言えば男性の方をイメージして、ベースのカラーをシックにしたり、罫線も少し濃く、はっきりさせたり。細かなディテールにこだわって、そのシリーズの特徴を出すようにしています。
左が通常のジブン手帳で、右がジブン手帳Biz。たしかに、マス目の大きさは同じでした。
―使う人を想像しながらデザインされているんですね。
そうですね。どうせ使うなら楽しく使っていただきたいですしね。
―使っている紙についてはいかがでしょうか。
紙は、通常版のダイアリーに関してはトモエリバーの手帳用の紙を使っています。「ほぼ日手帳」さんでも使われてる紙ですね。
―あちらの手帳も人気ですね。
裏うつりがしづらい。そして、軽くて薄いのでとてもいい紙なんです。ただ、紙の特性上、圧力をかけると紙がへこんでしまうんですね。フリクションペンで書いて消すときに、ラバーでこするじゃないですか。そういうときです。
―私もそうですが、フリクションペンは使っている人が多いですもんね。
それがちょっと苦手だなっていう意見を聞いて。そこでBizでは、コクヨさんのオリジナルの紙で「MIO PAPER」というものを採用しています。
本当に微細な違いですが、たしかに厚みが違います。
表面もツルツルしていて、こすってもへこたれない。これはベストだなと思ったんですけれども、1枚の厚みが、ちょっとだけ増えてしまうところがあって。
―(さわってみる)たしかに少し厚みに違いがありますね。
ですので、Bizはページ数がちょっとだけ少ないんです。厚みが違う分だけ。
左が通常版、右がBiz。使用する紙によって厚みに違いが。
―厚みにまでこだわられているとは驚きました。ただここまでのモノづくりをするとなると、苦労もあるのかなと思うのですが。
もちろん大変なこともありますが、それ以上に自分の頭の中にあるものをアウトプットするのが楽しいんですね。あとは課題を解決していくというプロセスが広告づくりと似ていて。自分にはあっていたのかもしれません。
―そこはお仕事ともつながっていたということなんですね。
佐久間さんのオススメの使い方を伝授!
―ここで、佐久間さんからオススメの使い方をお聞きしたいんですが。
実は手帳の中に、私の書き方と同じようなサンプルを載せていまして。ただ、これから使ってみたいという方にお見せすると、「こんなに書かなきゃいけないの」って言われることも多くて(笑)。
ジブン手帳にある書き方サンプル。こう見るとハードルが高いような...
―たしかに、かなりの書き込みですね。
でも、実は1日の生活って簡単にまとめれば、このくらいは書けちゃうものなんですよ。
―書き込んでいくうちにこうなる、ということなんですね。
はい。私の書き方をお伝えすると、まずは予定を書き込むだけです。それだけなら、書き込む要素もさほどありませんから。新幹線の行きと到着とか、日々の打ち合わせを矢印で、ただ書くだけですね。その後、本来は毎日書き込むべきなんですけど、私の場合は、1週間まとめて振り返りながら書き込む感じです。基本面倒くさがりなので毎日はつけられなくて(笑)。
―(笑)。時間の予定をまずは入れると。
それで次に書き込む要素としては睡眠をおすすめしています。
―それはどうしてですか?
何時に寝て何時に起きたっていうことを書くと、1週間で見たときに、その週のバイオリズムみたいなものが分かるんですよね。
―自分の調子を可視化するみたいな。
時系列で見ることで、この日はちょっと大変だったなって分かったりする。じゃあ次の週は、いい1週間にしなきゃなっていうので、自分へのフィードバックにもなるので。
―睡眠が足りないと感じたら、次の週はちゃんと寝るようにしようってことですね。
次は、食事ですね。私は毎食必ず写真を撮るので、スマホの写真を見ながら、食べたものを記録しています。私の場合、会社のデスクのコンビニ弁当が多かったりしますが(笑)。あとは誰と食べたか、メインで何を食べたかなども書いておくと、思い出しやすくなると思います。
―そのときの食事のアウトラインを書いておくと。
それで最後にその日の行動ログを書き込めば、このくらいの分量になりますね。私はスマホのGPS機能を使ってログを書き込むようにしてます。こう言うと、デジタル人間じゃないかって言われそうですけど(笑)。あとは、先ほども言ったように私は面倒くさがり屋なので、検索性を高める工夫をしています。出張はマーカーで囲んで目立つようにするとか。そのときに知りたい情報がパッとわかることを大切にしていますね。
―そうすると、出来上がったものは簡単な日記のようなイメージになりますね。
そうです。私は日記をつけることも面倒くさいものですから(笑)。なので、このジブン手帳の書き込みがその代用になればいいと思っていて。
―なるほど。予定の管理も日記の代わりもこれ一つということですね。それでは最後に、そんな便利なジブン手帳をこれから使う方にメッセージをいただけますか?
そうですね。まずは1週間、自分の行動を可視化してみて欲しいです。それを客観視すると、自分がよく見えてくると思うんですよね。意外に怠けていたなとか、忙しいって言いながらしっかり睡眠は取れているなとか(笑)。自分の今、立っているところを知ることが重要だと思います。
―5年後、10年後と言っても、先は見えないですしね。
続けなくちゃと頑張るのではなく、取りあえず1週間、このフォーマットに入れてやってみてください。そうすれば、その1週間がきっと特別なものに見えてくるはずですから。そして、その記録を将来見直したとき、このときの自分が昨日のことのように思い出せる。そんな手帳にしたつもりです。
―記録することで自分の今を知る。なんだか身につまされる思いです。
私は、今を知らない限り、どの方向にも行けないと思っているんですね。だから未来主義でも過去主義でもなく、目の前の1週間を大切にして欲しいというのが私の主義です。
―なるほど、今に答えがあるということですね。ちなみに、佐久間さんの今ということで言うと、現在開発や企画を進めている商品もあったりしますか?
よくぞ聞いてくれました(笑)。実は、検索がしやすいメモ帳というものを考えていて。
―なるほど(笑)。ジブン手帳と同じようなおもてなしというか、やり過ぎなくらいのメモ帳を。
やり過ぎですね、多分(笑)。世の中にはたくさんメモ帳がありますけど、絶対にまだまだ改良できるなと思っていて。実現したときは、ぜひまた取材に来てください!
―今後の展開を楽しみにしています。今日はありがとうございました!
ありがとうございました。
おわりに
緻密に計算されたフォーマット、そして紙の種類や手帳の厚みまで。佐久間さんのこだわりが詰まったジブン手帳は、今の自分を振り返り、見つめ直すきっかけをくれる手帳なのかもしれません。ぜひ、ハンズの店頭で手にとって、そのこだわり具合を確かめてみてくださいね!
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