【連載vol.2】定番モノは文具沼への入り口 〜ツバメノートさんに潜入編〜

「文具沼」という言葉を、ご存知ですか?文具の魅力にハマって抜けられない...むしろ抜けたくない、という状態を「文具沼にハマる」といいます。この連載は、文具沼にハマった事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語。
第二回となる今回は、大瀬が大好きなロングセラーノート、〈ツバメノート〉の製造現場に突撃!ずっと変わらない古きよきものづくりの姿に迫ってきました!

突撃早々、ツバメノートのことをもっと好きになる大瀬バイヤー

大学生時代から使い始め今でもなお使っているほど、ツバメノートのヘビーユーザーである大瀬バイヤー。何十年も愛用している一品がどのように生まれているのか、大瀬は心を静かに躍らせながら、東京は足立区にあるツバメノートの製本工場へ取材スタッフとともにやってきました。

―お邪魔します!ツバメノートさん、本日はよろしくお願いします!
大瀬:
こんにちは、大瀬です。よろしくお願いいたします。

1907bungunuma2_01.jpg

事務用品バイヤーの大瀬。この連載記事の主人公で、ハンズ歴29年の大ベテラン。文具沼にどっぷり浸かっていて、特に定番の事務用品をこよなく愛する。大学生時代はウエイトリフティングに励み、現在は居合道、杖道に精通する武道家。

渡邉さん:工場長の渡邉です、こちらこそよろしくお願いします。

1907bungunuma2_02.jpg

ツバメノート製本工場の渡邉崇之さん。現社長の渡邉一弘さんは崇之さんの兄で、崇之さんと一弘さんの祖父である初三郎(はつさぶろう)さんが昭和22年に創業して以来、ツバメノートの経営は代々渡邉さんのご家族が担ってきました。

大瀬:本日はお忙しい中、こうして貴重なお時間をいただき誠にありがとうございます(ペコリ)。
渡邉さん:いえいえそんな、お気遣いなく(ペコリ)。

1907bungunuma2_03.jpg

―さすが武道を嗜んでいるだけあって、礼節がきちんとしている。
大瀬:私の大好きな〈ツバメノート〉がここでつくられているんですね。いやあ、高鳴ります。

1906bungunuma1_08.jpg

第一回でご紹介した、大瀬バイヤーのツバメノート。「カレンダー」と書いているが、カレンダーとして使っている訳ではない。
ツバメノート A5 50枚 220円+税
※実際の商品には「カレンダー」と書かれておりません。

―ただ、恐縮ながらもっと広々としたところでつくっているものだと勝手に思っていました。

1907bungunuma2_04.jpg

渡邉さん:広いところで最新の機械をガンガン使って大量生産しているイメージを持たれるかもしれませんし、他のメーカーさんの多くはオートメーション、つまり作業を自動化するような設備を整えているかもしれません。ただ、私たちは皆さんが思った以上に手づくりでやっていて、使っている機械も年季が入っているものばかりです。
例えばこれは折機といって、ノートの中央に折り目をつけるためのものなのですが、これは昭和30年代頃からずっと使っています。

1907bungunuma2_05.jpg

折機をまじまじと見る大瀬。

大瀬:歴史を感じる立派な顔立ち(?)をしていますね。

渡邉さん:ただこの機械に使っている部品がすごく特殊で、今ではもう取り扱っている業者さんもいなくて...。もしこれが壊れてしまうと、同じ機械をつくることはとても難しいんです。

大瀬:
おお...。もしや私が好きな罫引き※の機械も...?
(※楽器の弦のようなものが一定に並んでいる専用の機械に水性インクを補充し、紙に罫線を引いていく昔ながらの方法。詳しくは第一回をご覧ください)

渡邉さん:
ええ。この工場ではなく、台東区にある罫引所でやっているのですが、効率化の観点から、罫引きそのものの需要がなくなっていることもあり、今ではその機械も日本に1台しかありません。また、職人の高齢化問題などもあって、正直なところ決して安泰な状況下でつくれている訳ではありません。

大瀬:なんと...。ツバメノートはいつも当たり前のように店頭に並んでいますが、当たり前に日々の生産ができている訳ではないのですね。

―そういう状況なら、なぜ他のメーカーさんのように最新の機械を導入しないのですか?

渡邉さん:創業当時から変わらず、本物のノートをつくり続けたいからです。お客様から特にご支持いただいているのは品質だと思っていて、私たちもそこは絶対にぶれたくない。それに最新の機械を導入することが高品質に直結する訳でもなくて、そこがものづくりの難しいところです。
あと、この古きよき手仕事がなくなってしまうのはとても惜しいことだと思うので、この製造方法をできるだけ守りながら、お客様の期待に応えられるようなノートをこれからもつくっていきたいんです。

大瀬:もうね、たまりません。私はツバメノートの「変わらないこと」が一番の魅力だと思っているのですが、お話を聞いてますます好きになってきました。

思い出の糸綴じにトライする大瀬バイヤー

大瀬:折機のような歴史を感じる機械は本当に素敵ですよね。ツバメノートの変わらないよさを象徴しているように思いますし、周りを見渡すとそういったものばかりで興奮も冷めやらぬ状況です。

1907bungunuma2_06.jpg

―(そんなハイテンションには見えないけど...)。
渡邉さん:ではせっかくなので、他の機械も簡単にご説明しましょう。
ノートづくりの工程に沿ってお話すると、まずは台東区にある罫引所で罫線が引かれた、ノートのもととなる紙がどさっと届きます。弊社のオリジナル「ツバメ中性紙フールス」というもので、北海道の工場で製造しています。

1907bungunuma2_07.jpg

大瀬:蛍光塗料を使っていないからホワイトの具合がナチュラルで目にやさしいんですよね。私も大学生時代に勉強ノートとして使っていましたが、講義内容を書いたノートと長時間対峙していても疲れにくかったような気がします。

―ウェイトリフティングのおかげで純粋に体力があったこともあると思いますが、そうなのですね。
渡邉さん:(笑)。そして、この裁断機でカットしていきます。

1907bungunuma2_08.jpg

渡邉さん:カットする寸法自体は機械にプログラムされているので、紙がズレないように整えてセットすればきちんと裁断してくれます。
次はこちらの計数機を使って、25枚ごとに付箋のようなものをはさみます。

1907bungunuma2_09.jpg

渡邉さん:それが終わったら今度は丁合い(ちょうあい)と言って、25枚ごとに表紙を差し込んでいきます。ちょっとやってみますか?
大瀬:はい、ではお言葉に甘えて。

1907bungunuma2_10.jpg

―ものすごく玄人っぽい。

渡邉さん:本当ですね、ハンズさんでの仕事の合間を縫って手伝っていただきたいくらいです(笑)。ここまで取り扱ってきた紙は、左右ページが分かれていない1枚の紙になっている状態(A4ノートならA3サイズの状態)なのですが、次の工程として、その中央部分にミシンがけをしていきます。その後に、先ほどご紹介した折機によって左右のページになるように折っていくんですよ。

大瀬:まさかの足踏みミシン...。これでひと束ずつ人の手で縫っていくんですね、すごい...。しかしミシンを見ていると、大学生の時に、「ツバメノートは糸綴じ製本だから丈夫だ」と言われて使い始めたことを思い出します。

渡邉さん:では、思い出の糸綴じをぜひトライしてみませんか?

大瀬:ちょっと緊張しますが、やってみます。

―上手くやるコツってありますか?

渡邉さん:一枚一枚がズレないように紙束が揃った状態で縫っていくことと、中央をしっかりと縫い合わせていくことですね。ここはかなりの集中力を要するので、トライしてみたらと言ったものの、ちょっと難しいかもしれません。

大瀬:...こぉ(呼吸を整える音)。...では。

ドドドドド(ミシンがかかる音)

1907bungunuma2_11.jpg

大瀬:...ふう。いかがですか?
渡邉さん:どれどれ...って、え?とても上手にできている...!

1907bungunuma2_12.jpg

立ち会ってくださった営業本部長の鈴木さんも背後で感心しています。

大瀬:ありがとうございます。
渡邉さん:もともとこういうことをどこかでやってらっしゃったんですか?
大瀬:いえ、全然。針のように先端が尖ったものが苦手なので。

―(居合道やってるのに尖ったものが苦手なんだ...)。

ツバメノートをつくることは、一生をかけて楽しめる仕事

渡邉さん:折機のあとは、紙を圧縮させるためにそれらを積み上げ、上から重しを置いて1〜2日間程度寝かせてから、仕上げに均し機(ならしき)を使います。紙をさらに圧縮させるために使う機械で、紙束をセットして上からプレスします。圧縮具合にムラが出ないよう、均等に紙を潰すことがポイントですね。

1907bungunuma2_13.jpg

大瀬:ふむ。プレスする動きがなんだかかわいらしくてよいですね。

渡邉さん:なお、一回のプレスにつき約2トンの力がかかるので、うっかり指を入れようものなら骨が粉々になります。

大瀬:剣が持てなくなる。

―なぜ均し機だけ使うのではなく、1〜2日間寝かすのですか?

渡邉さん:機械だけだとどうしてもムラが出てしまうので、より均等に潰すためにはどうしても時間をかけて自然にやらないとだめなんです。
さて、次はプレスをかけた紙束を揃えてから、ノートの背部分にボンドを塗って2時間ほど乾かします。完全に乾いたらカッターで1冊分(例えば100枚のタイプなら1束25枚×4セット)ずつ剥がしていき、クロスという機械にかけて真っ黒のクロスを背に塗っていきます。

1907bungunuma2_14.jpg

大瀬:バケツがカスタマイズされていたり、ベルトコンベアが剥き出しだったり...すごく私好みです。

渡邉さん:こちらは昭和20年代から使っている大ベテランです。今回ご紹介する製造工程は、もともと弊社とお付き合いのある職人さんにやっていただいていたのですが、お歳を召されて、後継者もいなかったので廃業せざるを得なくなりまして。
ならば自分たちが受け継ごうと思ってこれらの機械を譲り受けたんです。細かいところには職人さんの改良が加わっているので、使っていてわからないことやトラブルがあると職人さんに助け舟を求めるのですが、その方ももう85歳なので気軽にこの工場まで来ることもできず、電話口でただ「がんばって」とエールをくださったり(笑)。

大瀬:
(笑)。

渡邉さん:
と、ここからは仕上げ作業に入ります。まずはクロスの余分なところをカッターで削り、先ほどご紹介した裁断機を使ってさらに余分なところをカットしていきます。そして最後に、この機械で金判を押して完成です。

1907bungunuma2_15.jpg

―ご説明ありがとうございました。大瀬さん、いかがでしたか?

大瀬:ここは私にとっての桃源郷かと思うくらい楽しかったです。ちなみに、渡邉さんはこの仕事のどういったところが楽しいですか?

渡邉さん:
どれも細かな調整が必要になってくるので、結構大変なんですね。折機に紙束を入れるスピードがほんのちょっとズレただけで変に折れてしまったり、ミシンがけする角度が1mm違うだけで商品にならなくなったり。それに、紙の状態もその時々でわずかに違ったりするので、それに合わせて機械を都度セッティングし直さないといけないんです。


―ええと、お聞きした感じだととても大変そうなのですが、それが楽しいんですか?


渡邉さん:
それがねえ、そうなんですよ(笑)。誰でも簡単にできないからこそやってやろうと思うし、上手くできた時の達成感もひとしおなんです。先ほど、85歳の職人さんの話をしましたが、一番ケンカした機械が折機だと言うんですよ。ある日突然調子が悪くなって、原因もわからず2〜3日ずっとにらめっこしていたらしいんです。

大瀬:
職人さんも若い時は大変だったんですね。

渡邉さん:
そう思うじゃないですか。ただ、これは職人さんが80歳くらいの時の話なんですよ。何十年もやってきたベテラン中のベテランでも、引退する直前まで試行錯誤しながらやってきたんですね。それを聞いて、なんとチャレンジしがいのある仕事なんだと思いました。

1907bungunuma2_16.jpg

少しでも作業をしていたいから、工場の近くに引っ越してきたという渡邉さん。

大瀬:ずっと変わらないものをつくるのだから、仕事としては正直、ちょっと飽きちゃうこともあるんじゃないかと思っていた自分を恥じます。

渡邉さん:いえいえそんな(笑)。今の課題は生産力の向上なので、少ない人数で効率的に、かつ品質を絶対に落とさないようにやっていかなければいけないんですね。だから、ミシンのスピードをより早くするように改造するなど、今の環境に合わせて変えている部分もありますが、改良したいところはまだまだあるので、飽きるどころか日々のめり込んでいってるような気がしますね。

大瀬:
つくり手として文具沼に、もとい、ツバメ沼にハマっていらっしゃるのですね。

渡邉さん:
そうかもしれません(笑)。皆さまにもぜひ、この楽しいツバメ沼にハマっていただけるように、これからも頑張り続けたいと思います。

大瀬:
私も微力ながら応援いたします。本日は誠にありがとうございました。

おわりに

ハンズ歴29年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、様々な文具の魅力に迫る連載記事。第二回は大瀬が大好きなツバメノートについてご紹介しました。次回は、ツバメノートさんと同じくらい大好きだという、〈マジックインキ〉を手がける寺西化学さんに突撃インタビュー。一体どんなお話をお聞きできるのでしょうか!?


関連記事もぜひチェックしてみてください!
【連載vol.1】定番モノは文具沼への入り口 〜バイヤーお気に入りの文具をご紹介編〜

※掲載商品は一部店舗では取り扱いがない場合がございます。取り扱い状況については各店舗へお問い合わせください。
※掲載商品は、一部の店舗ではお取り寄せになる場合がございます。
※一部価格・仕様の変更、および数に限りがある場合もございます。※掲載写真には一部演出用品が含まれます。
※商品価格等の情報は、掲載時点のものです。

この記事の関連タグ