ハンズのシューケアマイスターが靴にまつわる「あの人」に会いに行き、聞きたいことや知りたいことを深掘りしてトークを展開する連載企画。第3回目となる今回はスニーカー編。今年1月にオープンした「Jason Markk Tokyo」のスニーカーケアテクニシャン、荒木智也さんを訪ねました。
※シューケアマイスターとは:「一般社団法人 日本皮革製品メンテナンス協会」が主催するシューケアマイスター試験に合格した、知識とスキルを兼ね備えたシューケアに関するスペシャリストのこと。
ジェイソンマークの旗艦店を訪ねて、今回はスニーカー編をお届けします!
今回のホストとなるハンズのシューケアマイスターはこちら!
ハンズ銀座店 シューケアマイスター 金丸
今回のゲストはこちら!Jason Markk Tokyo スニーカーケアテクニシャン 荒木智也さん
―お二人のご関係は?
金丸:実は、わからないことがある度にメールなどで質問させていただいていて、かなりお世話になっているんです。今日はその延長で、さらに深いお話を伺えればと思っています!
荒木さん:ハンズさんの社員の中でも、金丸さんが一番よく質問してくれます(笑)
―(笑)ではまず「Jason Markk Tokyo」について教えてください。
荒木さん:2007年にロサンゼルスで設立されたシューケアブランド〈ジェイソンマーク〉の旗艦店として、今年1月にオープンしました。アメリカの店舗と同様のスニーカークリーニングサービスを体感できるショップです。2014年にアメリカの店舗ができ、日本にも店舗をつくろうという話が何年か前から出ていて、ようやくオープンに至りました。現在は世界でもロサンゼルスと原宿の2店舗しかありません。
金丸:オープンの話を聞いて、ちょっと驚きました。日本上陸から10年が経った今になって、あえて直接クリーニングをするショップを立ち上げるのには、どんな狙いがあるんだろうと。
荒木さん:〈ジェイソンマーク〉は、ケアをする文化を広めることをコンセプトに掲げています。日本でもその文化はかなり定着してきたので、それをもうひとつ上のレベルに上げるために、リアルに体感できる場所をつくりました。
金丸:なるほど。今がそのタイミングだったんですね。
―では「スニーカーケアテクニシャン」とは、どんなお仕事なんでしょうか。
荒木さん:ジェイソンマークストアでスニーカークリーニングをするプロのスタッフをそう呼んでいます。このお店のオープンに当たってはかなり勉強しましたね。本国と同様のサービスを提供することが重要なので、アメリカに研修にも行きましたし、今も定期的に研修を受けています。
金丸:元々、スニーカーケアテクニシャンになりたかったんですか?
荒木さん:スニーカーは大好きなのでそれなりの数を持っていましたが、お手入れに関しては代理店の仕事をする中で商品知識とともに必要に迫られて覚えていった感じで、気づけばこの肩書に...。「ずっと前からシューケアが大好きで」という答えを期待してましたよね(笑)
金丸:(笑)でも私も同じようなものです。シューケア売場の担当になり、そこでシューケアマイスターの試験があることを知り、自然と導かれた感じです。でも元から革靴は好きだったので、すぐにお手入れにもハマりました。
来店するのは、どんなお客様?大変なのは、どんなとき?
―こちらのお店はスニーカーマニアや上級者向けのイメージがありますが、実際にはどんな方が来店されるんでしょうか。
荒木さん:いわゆる"スニーカーヘッズ"と呼ばれる熱狂的なスニーカーファンはやはり多いです。加えて、年代や性別に関係なく、大切なスニーカーをきれいにしたいという純粋な動機で来店される方も多いですね。例えば、ハイブランドのスニーカーを自分でお手入れするのは怖い、といった理由などで。
金丸:汚れの相談以外が目的のお客様もいますか?
荒木さん:スニーカーの雑談をしに来る方も多いです。それと、お手入れ自体が好きで、自分の"クリーニング論"を語りに来る方もけっこういます(笑)
金丸:(笑)交流の場でもあるんですね。
荒木さん:はい。でも、そういう場であるべきなのかなと思っています。この辺りはスニーカーのメッカですしね。
―単純な質問ですが、一足のお手入れにどれくらい時間をかけるんですか?
荒木さん:当店のメニューは大まかに言うと2つに分かれていて、「クラシッククリーン」は比較的簡単に落ちる汚れに対するメニューで、30分くらいです。「ディープクリーン」はスエードの黒ずみなどの染み込んだ汚れに対するメニューで、汚れをかき出す作業を1時間くらいかけて慎重にやっていきます。
店内のメニューボード。基本メニューに加え、部分別の追加メニューも豊富です。
金丸:全て手作業だから、手間も時間もかかりますよね。特に大変なのはどんなときですか?
荒木さん:もちろん何でも引き受けるわけではありませんが、引き受けたものの中にも「これは難しいな...。」と思うものがたまにあって。そういう場合は2〜3時間かかることもあります。でも、時間単位の仕事ではなく、きれいにするのが仕事なので...。
金丸:きれいになるまでがんばるしかないと(笑)
荒木さん:はい。本国直伝の秘伝の技など、あらゆる手を尽くしてきれいにします。もちろん自社製品だけを使って。でもきれいになる確証はないので、想像を超えた汚れの場合はドキドキが止まりませんけどね(笑)
―(笑)スニーカーと革靴のケアで、大きく違うのはどんなところですか?
荒木さん:スニーカーは革靴と比べて素材が多様なところですね。本革もあれば合皮もあり、スエードもナイロンもフェルトもあって。またそれが一足に複数使われていたりします。例えばこの靴のような感じで。
金丸:革靴ではまずないですからね、こういうものは。
荒木さん:素材によってケア方法も異なるので、その知識も必要になります。まあ基本的にはバーっと磨いちゃって大丈夫なんですが。
金丸:革靴との違いだと、革は定期的に栄養を与える必要があるというのもありますね。油分が少ないと風合いが変わったり、ヒビ割れたりしますから。色が褪せてきたら補色も必要になりますし、そこはスニーカーとの違いです。
おすすめのアイテムをご紹介。日頃のお手入れのアドバイスも
―では、おすすめのアイテムを教えてください。まずは初心者向けを。
荒木さん:初心者向けは〈エッセンシャルキット〉ですね。天然由来成分のクリーナーと硬めの合成繊維毛ブラシが入った基本のセットです。耐久性のある素材やソールを磨くのに適していて、汚れをガシガシ落とせます。
金丸:ハンズでは、そのブラシを豚毛ブラシに換えた限定コラボセットも販売しています。柔らかな豚毛なのでデリケートな素材のケアにぴったりです。クリーナーのボトルをハンズ仕様にしていますが中身は同じで、少量でも泡がすごく立つので、これで100足分くらい磨けます。
左:ジェイソンマーク×ハンズ プレミアムエッセンシャルキット 2,640円(税込)
右:ジェイソンマーク エッセンシャルキット 2,530円(税込)
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※ジェイソンマーク×ハンズ プレミアムエッセンシャルキットは、ハンズのみの販売となります。
荒木さん:素材に合わせてブラシを使い分けてほしいですね。〈ジェイソンマーク〉では豚毛ブラシは単品販売のみなので、豚毛のブラシから始めたいという方は、ぜひハンズさんの限定セットを。
―続いて、よりこだわるならコレ、というアイテムを教えてください。
荒木さん:よりこだわる方にはこちらですね。
ジェイソンマーク
左:プレミアムスエードクリーニングキット 1,980円(税込)
右:プレミアムマイクロファイバータオル 1,540円(税込)
商品はこちら>>
荒木さん:〈プレミアムスエードクリーニングキット〉は、スエードやヌバックなどのデリケートな素材のケアに最適です。柔らかな馬毛のブラシで表面の汚れを落とし、深く染み込んだ汚れはイレイザーで浮き上がらせてから、クリーナーで洗います。そして、最後にもう一度ブラッシングして起毛させます。
金丸:スエードのケアには必須ですね。
荒木さん:汚れや水分を拭き取る際に活躍するのが〈プレミアムマイクロファイバータオル〉です。超極細の繊維が汚れやホコリをキャッチし、本体の重さの約7倍の水分を吸い込む吸水性でしっかり水分も拭き取れます。
金丸:これは使うと違いがよくわかります。吸水力が本当にすごいし、これで拭くだけでも汚れがかなり落ちるので、とにかく便利です。
―日頃からできるお手入れのアドバイスはありますか?
荒木さん:こまめなブラッシングですね。私は先ほどのスエード用ブラシを使って、ちょっと汚れが気になったらササッとブラッシングしています。
金丸:ブラッシングが大切なのは革靴と同じです。できれば、簡単で構わないので履いた靴はその日のうちに軽くブラッシングしてほしいですね。
―上手な保管方法についても教えてください。
荒木さん:こだわりだしたらキリがありませんが、簡単にできるのは乾燥剤を入れておくことと通気のよい場所で保管すること、そしてとにかく放置しないこと。あとは、なるべくちょこちょこ履くことかな。
金丸:履くことは大事ですよね、それによって靴の状態も確認できますし。こまめにブラッシングをして定期的に履く。それが靴への愛情です。
スニーカーケアの今と未来。そして、日々の仕事の原動力は?
―日本での販売開始から約10年。その間にスニーカーケアアイテム市場はどう変化しましたか?
荒木さん:スニーカー市場は当時から現在まで膨らみ続けていますが、ケアアイテムに関しては10年前はそんなに売れていませんでした。そもそも数自体も少なくて。でもアメリカでは盛り上がって来ていたので、確実に日本でも盛り上がるだろうと思っていました。予想通り市場も大きくなって、今ではスニーカーケアのブランドも増えましたが、そういう傾向は5年前くらいからですね。
金丸:ハンズの店頭でも感じますが、最近は「スニーカーをきれいにしたい」という方が本当に増えましたよね。それに伴い、扱うアイテムの量も増えています。
―お手入れして長く使う。昨今話題のSDGsともつながりますね。
荒木さん:〈ジェイソンマーク〉はSDGsが叫ばれる前から環境に配慮していました。近年は洗剤の成分を100%天然由来にリニューアルしたり、防水スプレーをガス式からミスト式に変えたり、さらに加速させています。
金丸:スニーカー業界も最近はその部分をすごく意識していますよね。
荒木さん:大手ブランドがリサイクル素材を使ったモデルをリリースしたり、ここ数年はその流れが顕著ですね。スニーカーだけでなくファッション業界全体がそちらへ向かっています。
金丸:そういった面では、革靴はスニーカーよりも若干遅れていると個人的には思っています。石油系原料が使われている商品もまだ多いですし。もちろん時代に合わせて変化していますが、もっと変えていかなければいけないのかなと感じています。
―スニーカーケアの未来に関してはどんなイメージを描いていますか?
金丸:子どもの靴を洗いたいという親御さんもよく来店されますが、親から子へと伝えることで、将来的には小さな子どもも自分の靴は自分で洗うという文化ができれば素敵ですよね。そんな世の中になるのが私の夢です。
荒木さん:すてきです!子どもたちはまず上履きからですね。
金丸:洗濯機で洗ったりせず、スニーカーにやさしい正しい扱いを小さい頃から覚えて。それによって「ものを大切にする」という意識も育まれるし。
荒木さん:汚れた靴は自分で洗う、それが自然なことになれば世の中が変わる気がします。そして、大人も子どももみんなが〈ジェイソンマーク〉の商品を使っていたら最高です(笑)
―では最後の質問です。お二人にとって「シューケア」とは?
荒木さん:スニーカーケアは私にとって"喜び"ですね。お客様に「すごくきれいになってる!」と喜んでいただけるのがうれしくて。その笑顔を見ることが私の喜びであり、日々の仕事に取り組む原動力になっています。
金丸:先に"喜び"を言われてしまいましたが...私も同じことを考えていました。靴が傷んだので何とかしたいというお客様の困りごとを少しでも改善できて、喜んでもらえたときが一番うれしいですからね。
荒木さん:根っこの部分はお互い同じですよね。じゃなければ、この仕事はしていないと思います。
金丸:今日はいろいろ聞けてよかったです、ありがとうございました!でもまた困ったら質問させてください(笑)
荒木さん:いつでもどうぞ!
撮影協力:Jason Markk Tokyo(渋谷区神宮前4-32-7)
https://jasonmarkk.co.jp/pages/tokyo
おわりに
今回はスニーカーをテーマにお届けしました。革靴と同様に、知れば知るほど奥が深いスニーカーケアの世界。一歩、足を踏み入れて、自分でお手入れを始めてみませんか?
【連載】シューケアマイスターの「あの人に会いたい!」vol.1 靴磨き世界チャンピオン 長谷川裕也さん編
【連載】シューケアマイスターの「あの人に会いたい!」vol.2 FANS.新橋 井上伊吹さん編
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