【連載vol.23】定番モノは文具沼への入り口〜ステッドラーさんの鉛筆の歴史編〜

この連載は、文具沼にハマった事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語。大瀬バイヤーが今回目をつけたのは、187年前から鉛筆づくりを行うという超老舗メーカー〈ステッドラー〉さん。世界最多※の硬度(12B~10H)を誇る鉛筆〈マルス ルモグラフ高級鉛筆〉が代表的な商品ですが、今回は〈マルス ルモグラフ高級鉛筆〉を含むこだわりのアイテムを3点ご紹介いただきます!
※2022年1月現在

大瀬バイヤーが鉛筆の歴史に迫る!

―大瀬さん、こんにちは。今日ご紹介するアイテムは一体どういうものですか?
大瀬:今回ご紹介するのは、これらです。

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ステッドラー
マルス ルモグラフ ヒストリカルペンシルセット 2,200円(税込)
ハンズ限定 製図用シャープペンシル 各1,540円(税込)より
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―〈ステッドラー〉さんの筆記具ですか!

大瀬:ええ。〈ステッドラー〉さんといえば、ドイツ発祥の筆記具メーカー。その歴史は深く、なんと創立180年以上というではありませんか。日本の文具メーカーとはまた違うこだわりや視点で筆記具をつくられているに違いない。そう思い、今回の手合わせ(インタビュー)をお願いした所存です。

小野さん、西塔(さいとう)さん、本日はどうぞよろしくお願い申し上げます。

小野さん・西塔さん:よろしくお願いします!

2202_bungunuma_02.jpgステッドラー日本株式会社 左から:西塔さん、小野さん

小野さん:大瀬さんのおっしゃる通り、〈ステッドラー〉はドイツのメーカーでして、日本とは鉛筆に対する意識がちょっと違うんです。

―鉛筆に対する意識、ですか?

小野さん:ええ。例えば、鉛筆を使う目的。日本では「文字を書く」ことが用途として一般的ですが、〈ステッドラー〉の場合、「絵を描く」ことに重きをおいているんです。そういうこともあり、これからご紹介するアイテムは芸術家やアートを学ぶ学生に人気のものばかりなんですよ。

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木炭を使った鉛筆や水筆でなぞると水墨画のような仕上がりになる鉛筆など、〈ステッドラー〉には、アート用として活躍する鉛筆がたくさん!

―なにやら鉛筆の概念が変わりそうな気配がプンプンしますね。ね!大瀬さん!

大瀬:うむ。

2202_bungunuma_04.jpg小野さんがドイツの直営店で購入した日本未発売の「カーペンターペンシル(大工用)」を手に、ワクワクする気持ちを止められない大瀬。

1600年代の鉛筆を商品化!?

小野さん:まずご紹介するのは〈ルモグラフ ヒストリカルペンシルセット〉。こちらは、〈ステッドラー〉の代表的な鉛筆〈マルス ルモグラフ高級鉛筆(HB×12本)〉と〈ヒストリカルペンシルメーカー〉がセットになったスペシャルなアイテムです。

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ステッドラー ルモグラフ ヒストリカルペンシルセット 各2,200円(税込)※数量限定発売
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大瀬:鉛筆をつくるキットがセットになっているとは、また粋なはからいを。しかし、この〈ヒストリカルペンシルメーカー〉に入っている鉛筆は、私の知る鉛筆とは様子が異なるようですが。

小野さん:実はこれ、1600年代にドイツでつくられていた〈ステッドラー〉の鉛筆を再現したものなんです。

大瀬:これが1600年代、つまり400年近く前の鉛筆ということ。今と姿は違いますが、400年前にこの仕上がりに達しているという事実に脱帽します。

2202_bungunuma_06.jpg2枚の板に芯を挟み、糸でぐるぐると巻き固定してつくります。

大瀬:おや?待たれよ。

―どうされました?

大瀬:〈ステッドラー〉が創立したのは1835年。1600年代の鉛筆を再現しているというのは、一体どういうことでしょうか?

―大瀬さん、鋭い!

小野さん:鉛筆の歴史は1500年代中期にまで遡ります。当時、イギリスのボローデルという山で黒鉛が発見されたことがきっかけで、ヨーロッパを中心に鉛筆は発展しました。そして、黒鉛を木材でサンドするこのスタイルは、ドイツが最初に行ったと言われています。〈ステッドラー〉は、創業1835年であるものの、それ以前にずっと家業として鉛筆づくりを行っていたんです。創業者がヨハン・セバスチャン・ステッドラー氏で、そのご先祖がフリードリッヒ・ステッドラー氏という方なのですが、この方こそ鉛筆製造業者として現存する世界最古の公式記録に名を残されているんです。


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大瀬:なるほど、それはすごい。このキットを通して、鉛筆と〈ステッドラー〉の長い歴史を感じられるということですね。現代の鉛筆はどのようにしてつくられるのですか?

小野さん:〈ステッドラー〉では、だいたい8ステップの工程で鉛筆を製造しています。


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小野さん:ざっくり言うと「木材を板状にカット」「板に溝を掘る」「溝に芯を入れ接着させる」「もう一枚の板でサンド」「カットする」「塗装を繰り返す」「ツヤを出す」「鉛筆のお尻にフタをするクラウン加工を施す」という工程です。

2202_bungunuma_09.jpg仕上げの塗装はなんと計10回も行うのだとか!こうすることで、丈夫で美しい鉛筆に仕上がるそうです。

大瀬:お尻にフタをする「クラウン加工」は、どのような意図で行うのですか?中には加工されていない鉛筆も見たことがありますが。

小野さん:木材や芯は、湿気が劣化の要因となるので、外気に触れさせないためです。全体の塗装後に白を、その後黒を重ね塗りして加工をします。

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大瀬:それだけ手間がかかっているから〈ステッドラー〉の鉛筆はお値段がはるのですね。

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〈ステッドラー〉さんのこだわりに関心する大瀬。

小野さん:それだけではないんです。大瀬さん、よい鉛筆の特徴は何だと思いますか?

大瀬:粘度が高く、なおかつ粒子が細かくて、なめらかに書ける鉛筆では?

小野さん:さすが大瀬さん、お見事。よい鉛筆というのは、芯の粒子が細かく均一。そうするために、黒鉛を粉々に砕いた後、黒鉛と粘土をあわせ攪拌するのですが、〈マルス ルモグラフ高級鉛筆〉はこの時間を長く確保しています。こうすることで、粒子が細かく均一になり、文字や絵を書いていても芯がスレにくくなるんです。

大瀬:ほう。つまり、文字を書いても黒鉛の粒子で手が汚れないということですね。〈ルモグラフ鉛筆〉がアート関係の方に広く支持されている理由がわかりました。

〈ルモグラフ鉛筆〉を576本セットした規格外アイテム

西塔さん:続いてご紹介するのは、〈マルス ルモグラフ高級鉛筆 回転式ディスプレイセット〉。なんとこちら、先ほどご紹介した〈マルス ルモグラフ高級鉛筆〉の9B〜9Hを試せる超スペシャルセット。さらにセット本数は合計576本という規格外な商品なんです。

ちなみに、「B」は「BLACK」の略字で、Bの数字が多いほど濃くやわらかい芯を示し、「H」は「HARD」の略字で、Hの数字が多いほど薄い硬い芯を示しています。

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ステッドラー マルス ルモグラフ高級鉛筆 回転式ディスプレイセット(鉛筆9B〜9H入)101,376円(税込)
※2022年2月11日(金・祝)~ネットストアにて3台限定販売
商品はこちら>>

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9B〜9Hの鉛筆をとことん試せる!

大瀬:この場に実物はありませんが、画像で拝見しても大きさに驚いてしまいますね。実際のサイズはこれくらいでしょうか。

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実際の大きさはこれくらい。

西塔さん:まさに!せっかくなので、ぜひ試し書きをしてみてください。

大瀬:では、お言葉に甘えて。

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―かなり芯が太いですね。書き心地はいかがですか!?

大瀬:ふむふむ。9Bは、芯が柔らかく鉛筆ではないような不思議な書き心地ですね。

西塔さん:12Bや9Bは、黒鉛の純度が高く紙への定着性がよいです。芯が折れにくく、なめらかな書き心地ということもあり、絵描きさん達から特に人気の商品なんです。風景や水たまりの泥を描くときに使うことが多いみたいですよ。

大瀬:逆に9Hは、芯が硬く細いので文字を書くと紙の繊維につっかえてしまいますね。

西塔さん:9Hにもなると芯がかなり硬くなるので、文字を書くには不向き。こちらも基本は絵を描くことに特化していて、ある美術の先生はガラスや金属を描く際に、それに写り込む物体を描くときに活用しているとおっしゃっていました。

大瀬:ここまでくると、かなりニッチになりますね。

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2202_bungunuma_17.jpg9Bと9Hの書きあじを比較!

西塔さん:ガラスへの写り込みを描くとなると、ハードルが高く使わないのではと思われるかもしれませんが、例えばこんなイラストも簡単に描くことができるんです。

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大瀬:ほう。詳しくお聞かせ願いましょう。

西塔さん:9Hの鉛筆でまず線や文字を書き、その上から9Bの鉛筆で色を足すと9Hの線が白く浮き出て模様のようになるんです。

さらに、いろんな硬さや濃さの鉛筆を駆使すれば、このような大作を描くことだってできるんですよ。

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大瀬:これは素晴らしい。まるでモノクロ写真のようですが、全て鉛筆で描かれているのですね?

西塔さん:ええ。〈ステッドラー〉は、「文字を書く」よりも「絵を描く」ことに特化して鉛筆を開発し続けてきました。色味や濃さ、書き味を長きにわたり追求したからこそ、多くの芸術家や漫画家の方にもご支持をいただいているんです。これまで多くのアート作品を陰ながら支えてきたと思うと、〈ステッドラー〉の一社員として、とても誇らしく思います。

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ハンズ限定の製図用シャープペンシル

小野さん:最後にご紹介するのは、ハンズ限定デザインの〈製図用シャープペンシル〉です。

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ハンズ限定 ステッドラー 製図用シャープペンシル
上からメタリックゴールド 1,980円(税込)、ブラック&ゴールド 2,200円(税込)、グリーン・レッド・ブルー 各1,540円(税込)
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大瀬:もちろん存じ上げておりますが、改めて特徴を教えていただけますか?

小野さん:〈ステッドラー・製図用シャープペンシル〉は、低重心により、安定したボディバランスで正確に描け、長時間の筆記でも疲れにくいのが特徴です。「製図用シャープペンシル」とうたう際は、ペン先のスリーブを3ミリ以上に設計しなくてはならないのですが、〈ステッドラー〉は、この長さが4ミリというロングスリーブ設計になっているんです。

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大瀬:ロングである理由は一体?

小野さん:日本の定規の厚さが大体2〜3ミリでして、作図を精度よく綺麗に仕上げていただくために4ミリのスリーブを設けています。

そのほか、飽きのこないデザインもまた魅力の一つ。〈ステッドラー〉の理念でもある「ロングライフ」にもあるように、ずっと使い続けたくなるようなデザインを意識しています。

―確かにシンプルで無駄のないデザインですね。

小野さん:ハンズ限定デザインは、さらにクールなデザインに仕上がっているんですよ。例えば、コラボをすると大体どこかに社名を入れる会社が多いのですが、ハンズさんからは「〈ステッドラー〉のロゴだけにしてほしい」とのご依頼があり、かなりシンプルなデザインに仕上げたんです。

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〈ステッドラー〉のロゴのみのシンプルなボディ。ノックパーツに溝をなくし、スマートな印象に仕上げたのもこだわりの一つ。

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ノック部分に"Meister"という表記が入っているのもハンズだけの特別なデザイン!

大瀬:なるほど。あえて、限定品という情報を省くことで、それがかえって他のコラボ商品と差別化できているということですね。(筆記具担当バイヤー、やるではないか)

―(大瀬さんがなんだか得意げだ)

大瀬:ところで、芯について一つ気になっていたことがあるのですが、鉛筆の芯は粘土を使っていますが、シャープペンシルは樹脂を使うんですよね?それは何故ですか?

小野さん:シャープペンシルの芯は強度を増すためにPVC樹脂を入れるのが一般的なんです。しかし、〈ステッドラー〉は、実はPVC樹脂を一切使わず天然素材を使っているんです。(素材の詳細は企業秘密)

大瀬:ということは強度が低い、ということですか?

小野さん:強度を全く気にしていないというわけではないんです。折れにくいことはもちろん重要ですが、〈製図用シャープペンシル〉として、はっきりした線を描くにはどういうものがよいのだろう、ということを重要視した結果、天然素材を使用することに行き着きました。

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―プロツールとしてのこだわりがすごい!

大瀬:画材コーナーを担当していた頃、よく美術学校に通う学生や建築のお仕事をされている方々が〈ステッドラー〉の商品を手に取られることが多かったんです。正直、パッケージにこだわりが書かれているわけではないので、何がそんなによいのか不思議だったのです。

しかし、〈ステッドラー〉さんの商品は、プロツールとしての立ち位置を確立し、今もなおブレずに改良を続け進化し続けていらっしゃる。故に多くのプロフェッショナル達に長く愛されているんですね。今回の手合わせ(インタビュー)で、〈ステッドラー〉さんの筆記具づくりへの熱意とプライドをひしひしと感じることができました。たかが鉛筆。されど鉛筆、ですね。

おわりに

ハンズ歴30年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、さまざまな文具の魅力に迫る連載記事。第二十三回は、長い歴史をもつ〈ステッドラー〉とその筆記具をご紹介しました。次回は、どんなアイテムをピックアップするのか!?乞うご期待!

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