近頃よく聞く「マインドフルネス」。なんだか難しそう?いえいえ、意外と身近で気軽に取り入れられるものなんです!今回は、そもそもの概念の解説から、手軽な「ずぼら瞑想」の紹介まで、禅僧で精神科医の川野泰周さんにお話を伺いました。ストレスフルな時代だからこそ心に留めておきたい、言葉やヒントが満載ですよ!
協力:ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント
「マインドフルネス」って、何のこと? 教えて!川野先生!!
住職なのに医師?思ったより簡単?そして猫が...?? 今回は「マインドフルネス」について学ぶべく、横浜市磯子区の林香寺を訪ね、その普及活動にも取り組んでいる川野泰周さんにお話を伺いました。意外な発見や驚きも満載なので、どうぞ肩の力を抜いてお楽しみください!
臨済宗建長寺派 林香寺 住職 川野泰周さん
建長寺専門道場での3年半にわたる禅修行を経て、2014年末より横浜にある臨済宗建長寺派林香寺住職に。現在は檀務とともに坐禅会を定期的に開催。国内大手企業の社員研修や幅広い対象に向けた講演活動、さらにメディア出演などを通して、マインドフルネス普及活動にも取り組んでいます。
RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長。うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害、依存症などに対し、薬物療法や従来の精神療法と並び、禅やマインドフルネスの実践による心理療法を積極的に導入しています。
―いきなりストレートな質問ですが、「マインドフルネス」とは何なのか、まずは基本のところを教えてください!
川野さん:「マインドフルネス」は、瞑想などの行為やていねいな所作を通して意識を"いま"に向けた心の状態のことで、私も所属する日本マインドフルネス学会では「いま、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義づけされています。
―いわゆる"無の境地"と同じようなものですか?それとも全くの別物...?
川野さん:禅の世界でいう「無」や「空」の境地と全く同じとは言えないと思いますが、マインドフルネスを研ぎ澄ませていった先に「無我の境地」があるのではないかと考えています。何かひとつの対象に意識を向けている状態は、脳のエネルギーをさまざまな情報を処理するために同時に使っている状態と比べて、「無」に近いのではないかと思います。
―「無」ではないけれど「無」に近い、なるほど。マインドフルネスの状態になると、心や身体にはどんな影響があるんでしょうか。
川野さん:まずひとつには、自律神経系のバランスを調整する効果があります。リラックスに結びつく副交感神経が活性化されるだけでなく、交感神経と副交感神経のバランスがとれるイメージですね。近年ブームのサウナで「ととのう」という言葉がありますが、あの状態が自律神経が調整されている状態だと思えばイメージしやすいのではないでしょうか。マインドフルネスの普及活動でも「ととのう」という言葉がよく使われるんです。
―え?そうなんですか?サウナと近いなんて、ちょっと意外です!
川野さん:でも大切なポイントがあって、決して「ととのえる」ではないんです。ととのえようとすると、そこに意識が向かってしまうので、自然に「ととのっていく」のが正しい形だと私は考えます。
―能動的にではなく、受動的に「ととのう」のが正解。言葉で言うのは簡単ですが...でもわかる気がします。
川野さん:あえて「ととのえよう」と頑張るのではなく、いまここで生じている感覚にしっかりと注意を向けることで、気がついたら「ととのっていた」というのが理想形ですね。そもそも「ととのえよう」と思ってできる人は相当な達人です(笑)
―(笑)そういったマインドフルネスの状態に導く方法のひとつが「瞑想」だという認識で間違いないですか?
川野さん:はい。「マインドフルネス」は状態、「瞑想」が手段、という関係性で、マインドフルネスの状態をもたらす瞑想法を「マインドフルネス瞑想」と呼んだりもします。いずれにしても「マインドフルネス=瞑想」ではないので、使い分けることで解釈がクリアになると思います。
「瞑想」なんて難しそうだけど...。その種類や方法が知りたい!
―それでは一歩踏み込んで。「瞑想」について詳しく教えてください!
川野さん:まず前提として瞑想には、周囲の情報をインプットしながら注意を広げていく「オープン・モニタリング(OM)」「観察瞑想」と、1点に注意を集中させる「フォーカス・アテンション(FA)」「集中瞑想」の2種類があります。このうち「観察瞑想」の方は最初から実践するのは難しいと思われますので、今回取り上げる「集中瞑想」から入るのがおすすめです。1点に意識を集中する行為だけが瞑想ではないということは、頭の片隅に入れておいていただければ幸いです。
―観察と集中、覚えておきます!「集中瞑想」にはどんな種類があるんですか?
川野さん:どこまでを正式な瞑想とするかはいろいろな考え方がありますが、私が基本的な手法として位置づけているのは「呼吸瞑想」「ボディスキャン瞑想」「歩く瞑想」の3つです。
―難しそうですが...簡単に言うとそれぞれどんなものなんでしょうか。
川野さん:口や鼻から空気が出たり入ったり、身体が膨らんだり萎んだりするのを感じながら、あるがままの呼吸に意識を向けるのが「呼吸瞑想」です。坐禅をよりシンプル化した手法ですね。
「ボディスキャン瞑想」は、目を閉じて仰向けに寝転がり、身体の1箇所1箇所に注意を研ぎ澄ませていく瞑想です。まず最初に、つま先にどんな感覚があるかを感じて、次にかかと、膝、といった順に頭のてっぺんまで上っていって、各部位の感覚に意識を向けながら行います。
手のひらを介することで「呼吸に意識を向ける」感覚をつかみやすくなります。
―「歩く瞑想」も気になります。歩きながら瞑想なんてできるんですか??
川野さん:歩きながら、足が地面に着いたり離れたりする感覚に意識を向けるのが「歩く瞑想」です。私は「かかとが上がる→つま先が上がる→移動する→着地する」という4つの感覚を左右交互の足で意識しながら歩く方法をおすすめしています。
川野さん:単なる散歩と違って足に集中するので、人や車の多いところではなく、家の中や公園の遊歩道といった安全で静かな場所で行うのがおすすめです。
―ですよね。いろんな情報が入ってくる場所だと、気が散ってしまいますから。
川野さん:私たちの脳は本来、いろいろなことに気が向くようにデザインされているので、気が散るのは悪いことでありません。マインドフルネスにおいて"雑念を悪者扱いしない"のはとても重要で、雑念が生まれて気が散っても、それに気づいて意識を元に戻すことができれば全く問題はないんです。
―雑念は悪者じゃない。目からウロコです!そう思えば少し気が楽かもしれません。川野さんは精神科医としての顔もお持ちですが、医師の視点で言うとマインドフルネスにはどんな効果があるんですか?
川野さん:例えば、うつ病の再発予防に非常に効果がありますし、慢性疼痛にも効果を発揮します。また、脳の過活動状態が和らぐこともわかっています。脳科学(神経科学)や医学の研究技術の進歩によってそれらが検証・立証できるようになったのは、この10〜20年のことですから、今後さらに多くの発見がもたらされることに期待しています。エビデンス(科学的根拠)に支持される形でマインドフルネスが世界規模で広がりを見せていることは、とても自然なことと言えるでしょう。
例えばキャベツの千切りも。手軽で簡単「ずぼら瞑想」のススメ
―とはいえ、正式な瞑想を実践するのはなかなか難しいですよね...。川野さんは「ずぼら瞑想」を提唱されているそうですが、簡単にご紹介いただけますか?
川野さん:海外から入ってきたマインドフルネスのプログラムでは、ボディスキャン瞑想を45分実践するのが基本で、私も患者さんや瞑想教室の生徒さんたちに同じようにおすすめしていました。しかし実際には、それを長く続けられた方はごく少数で。私たち日本人の多くはとても多忙で、かつ睡眠時間が短いこともあり、瞑想中に多くの方が寝てしまうんです(笑)。そこで私は、厳格な形式にとらわれるのではなく、マインドフルネスの定義を満たすものであればそれはすべて瞑想だとして、暮らしの中に気軽に取り入れられる方法を考案し、「ずぼら瞑想」と名付けました。
川野泰周さん著『ずぼら瞑想』 1,210円(税込)
※9/1(金)~10/22(日)の期間限定で梅田店にて取り扱い予定です。
―「ずぼら」と聞くと、一気にハードルが下がる気がしますね。具体的にはどんな種類があるんでしょうか。
川野さん:私が好きなのは「お散歩瞑想」ですね。これは「観察瞑想」の要素も盛り込んでいて、見えるものや聞こえるものなどすべてに意識を向けながらゆっくりと散歩します。
―それだけでいいんですか?散歩するだけなら「歩く瞑想」よりも簡単です!
川野さん:ただここで大切なのは、散歩をしながらリアルタイムに生じる"いまここ"の感覚に注意を向けることです。例えば道すがら、小学生が歩いているのを見て「自分が小学生の頃は...」と連想を続けてしまうと、それは"いまここ"ではなく自分の思考に入ってしまっています。思考が巡り始めたらそれに気づき、またリアルタイムに生じている感覚に意識を戻すことが重要なんです。
―意識を元に戻すことが重要なのは、先ほどのお話と同様ですね。
川野さん:あと簡単なのは「吊り革瞑想」。吊り革や手すりを掴みながらでも、ドアに寄りかかってでもよいので、電車の中で立っている状態で、しっかりと足を着いてまっすぐに立つことをイメージしながら呼吸に意識を向けるだけです。電車の中の切迫感や閉塞感を軽減することにもつながるため、通勤されている方におすすめしています。
―例えばですが、料理も「ずぼら瞑想」になりますか?
川野さん:なりますね。以前、私の患者さんに「キャベツの千切りをしているときだけ心が救われる」という方がいらして、これも瞑想だなと気づきました。もちろんキャベツの千切りに限りません。私が好きなのはゴボウのささがきで、修行時代に料理番としてけんちん汁をつくっていた経験から、いまでも時々つくりながら「これも瞑想時間だなぁ」と感じています。
―ゴボウでととのう。なんだか素敵です(笑)
川野さん:私にとってはそれが、最高の瞑想のひとつなんです(笑)。卵を混ぜる、お味噌を溶くなど、かき回すような動作も瞑想になりますね。よく考えると、それらはお茶人が抹茶を点てる動作にも似ています。手の動きに心を研ぎ澄ますという点では、茶の湯の世界に通じるのではないでしょうか。また料理関連では「食べる瞑想」という実践法もあります。仏教には「食作法(じきさほう)」というものがあり、まったく音を立てないように一挙手一投足に注意を払って食べるんです。
並べているのは、修行時代に使っていたという「持鉢(じはつ)」。音を立てずに器を並べ、音を立てずに箸を使って食べるとのこと。
川野さん:大切なのは、音を立てないこと自体ではなく、食べる行為のみにしっかりと心を向けることです。もちろん日常生活で修行僧のようにこれを毎日やっていたら疲れてしまうかもしれませんが、最初の5分間だけ静かに食べてみるなど、普段の食事に取り入れることもできると思いますよ。
―日常の中にある、意識を向けることで自然にととのっていくような行為は、すべて瞑想になるということですね。
川野さん:はい。「いまこの瞬間の体験に〜」という定義に当てはまっていれば、すべては瞑想になると私は考えています。決してハードルは高くないので、初めは気軽な気持ちで、ご自身にとって心地よく過ごせる瞑想法を見つけてほしいなと思います。より興味が湧いてきたら、こうやって坐蒲(ざふ)に座って、本格的に坐禅を取り入れてみるのもおすすめですよ。
ハンズで「瞑想」、始めてみませんか?
―今回、ハンズ新宿店では「文化の芽」企画の第1弾として「マインドフルネス」を取り上げます。この企画には川野さんにもご協力いただいていますが、瞑想を気軽に取り入れようという企画趣旨は、まさに「ずぼら瞑想」の考え方と一致しますね。
川野さん:私はマインドフルネスをわかりやすく伝える「インタープリター(通訳者)」でありたいと思い、これまで活動してきました。言い換えれば「瞑想のハードルを下げること」が目標ですから、今回の企画は本当にありがたい限りで、お話をいただいたときは二つ返事で「ぜひ!」と(笑)
―(笑)新宿店の店頭では、川野さんの書籍や推奨アイテムを含む関連商品を取り揃えた「せいかつ瞑想コーナー」を展開します。今回はそこで販売予定の商品〈プレミアムミャウエバー〉を持ってきたので、ちょっと試してみていただこうかと。
川野さん:ぬいぐるみですか?可愛いですね!毛並みも本物の猫みたい。
プレミアムミャウエバー 各19,800円(税込)
ミャウエバー(グレー・ブラウン・アプリコットブラウン) 各9,500円(税込)
※9/1(金)~10/22(日)の期間限定で梅田店にて取り扱い予定です。
川野さん:心音も感じられるんですね。温もりもあって、まるで生きているみたいです!
―ちょっと背中を撫でてみてもらえますか...?
川野さん:あ、ゴロゴロゴロって言ってる!喉を鳴らす音ですね。癒やされるなぁ...これはハマりそう。撫でることに意識が向くから、立派な瞑想ですね。私は昔からお寺で犬のいる暮らしをしてきましたから、今度は犬タイプの「ワンエバー」とかも出してほしいです(笑)
―こういう面白いものから本格的な瞑想アイテムまで展開し、各種体験スペースも設けられますが、お客様へ楽しみ方のアドバイスなどはありますか?
川野さん:手で触れたり、香りを嗅いだり、五感を研ぎ澄ませていろいろと体験していただきたいですね。これをお部屋に置いたらおしゃれっぽいとか、単純に見た目がかわいいとか、そういう入り方でもよいと思うんです。ただそこに意識を向ける時間を1日に5分でも10分でも持つことができれば、その人にとってのマインドフルネスの第一歩になると思います。
―その入り口として、今回の企画を利用していただければということですね。
川野さん:瞑想が身近なものなんだと知るきっかけになればうれしいです。お買い物の途中で立ち寄って楽しめるのもとてもよいですよね。お買い物って、ある意味では「情報過多」や「マルチタスク」が避けられない時間だと思うんです。だから、その合間に気軽に寄れる"癒やしの場所"になればと思います!
おわりに
川野さんの柔和な表情とやさしい語り口に、こちらもすっかり癒やされました。「マインドフルネス」は、現代社会に生きる私たちにこそ必要なもの。難しそうだと構えずに、まずは気軽に「ずぼら瞑想」から始めてみませんか?
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