【連載記事】定番モノは文具沼への入り口 〜ホッチキスとパンチのことをひたすら聞きにいく編〜

この連載は、文具沼にハマった事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語。第六回のテーマは、"ホッチキスとパンチ"。大瀬バイヤーの思い出のものから、驚くほどに進化した最新のものまで、知られざる魅力を深掘るべく、業界の雄〈マックス〉さんに突撃してきました!

割と記憶が曖昧な大瀬バイヤー

―今日のテーマは"ホッチキスとパンチ"ということで、業界ではその名を知らない者はいないビッグカンパニー、〈マックス〉さんにやってきました!今回お話いただく、〈マックス〉の山本さん、よろしくお願いします!

山本さん:よろしくお願いします!

大瀬:よろしくお願いいたします。

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左:マックス株式会社 山本さん
右:よい雰囲気のセーターを着る大瀬バイヤー。

―これまで数多なるホッチキスやパンチを手がけてきた〈マックス〉さんですが、今回はその中でも大瀬バイヤーがピンときた3つのアイテムについてお話しできればと思っています。ということで早速、まず一つ目がこちら、〈ホッチくる〉です。

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マックス ホッチくる HD-10V 各600円+税

山本さん:大瀬さんはなぜこちらを選ばれたのですか?

大瀬:ホッチキスの中で一番思い出深いので選ばせていただきました。中でもよく覚えているのが大学生時代の記憶です。気の合う学友とともに旅行に行く機会があったのですが、よほど浮かれていたのでしょうね、「旅のしおり」なるものをつくったのですよ。その時にこちらをとてもよく使った記憶があります。

山本さん:しおり...つまり小冊子ですね。針を装填したマガジン部分がくるっと回転して、縦向きと横向きの両方向に綴じられるのが〈ホッチくる〉の特長ですから、小冊子の中綴じにご活用いただいたということですね。ありがとうございます。

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当時のことを思い出しながら小冊子の中綴じをする大瀬バイヤー。

―フォローのようなコメントをありがとうございます。

山本さん:お気になさらず(笑)。サークルやゼミの皆で行く旅行だったのですか?

大瀬:いえ、よく行動をともにしていた数人での旅行でした。完璧なしおりに仕上げたくて何度もつくり直した記憶がありますから、この〈ホッチくる〉には大変お世話になりました。

山本さん:あ、本当に個人的な旅行だったんですね(笑)。

―それはもう何年前くらいの話ですか?

大瀬:もう30年以上前の話です。

山本さん:......ん?すみません、〈ホッチくる〉が登場したのは1998年なので、今から20年ちょっと前のことですよ。...あれ?

大瀬:......?

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何かが止まった大瀬バイヤー。

山本さん:もしかして大瀬さんが使っていたのは〈ホッチくる〉が出る前のモデルじゃないですか?実物は持ってきていないのですが、資料は持ってきましたので、ちょっと見てみてください。

大瀬:......あ、これかも。

山本さん:あ、そうですか、よかった!大瀬さんはきっと1998年に登場する前の旧モデルをお使いいただいていたはずです。
基本的な仕様としては旧モデルも〈ホッチくる〉も変わっておらず、旧モデルは金属だったのが〈ホッチくる〉はプラスチック製になり、より持ちやすくなるなどの進化を果たしました。それ以来、こちらは多くの方々からご好評をいただいており、1998年の登場以来、何も変えることなくやってきました。

―こちらは主にどういったお客様たちにご活用いただいているのですか?

山本さん:学校の先生が多いですね。あとは先ほどの大瀬さんのエピソードに近いものですと、学生さんが修学旅行の小冊子づくりにご活用くださるなどでしょうか。あと、最近ですといわゆる同人誌をおつくりになる方々にもご好評いただいています。およそ15枚、つまり60ページまでの冊子なら難なく綴じられますから、同人誌のボリューム的にもマッチするんでしょうね。

大瀬:バイヤーとしてお伺いしますが、売り上げの推移としては正直どうですか?

山本さん:ホッチキスって結構、シリーズによっては売れたり売れなかったりの波があるのですが、〈ホッチくる〉はずっと安定した売り上げを残していて、ブームになるほどの多さではないけれど、マガジン部分がくるっと回るというニーズを求めている方々が確実にいらっしゃることがよくわかります。
そういう意味では、弊社の縁の下の力持ちというか、よい意味でとても渋いアイテムだと思いますね。なので弊社のアイテムの中から選ばれた1つ目がこちらなのは驚きでした。さすが、文具沼に浸かっている方の視点は違うなあと思って(笑)。

大瀬:かたじけない。

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お客様の声を自分たちで実際に聞きに行くのが〈マックス〉スタイル

―続いてはこちら、〈シフォネル〉という女性向けのパンチですね。大瀬さん、なぜこちらを選んだのですか?

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マックス シフォネル DP‐12 各620円+税
パステルカラー、ラウンド型の形状、指紋がつきにくいマットな質感など、女性を意識したデザインになっている。

大瀬:とにかく、使いやすいの一言に尽きます。中でもアイデアが練られているなと思ったのが、斜めになっているゲージです。

―すみません、ゲージって何ですか?

大瀬:これです。

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山本さん:ゲージのところに紙のサイズが書いてあって、そこに各サイズの紙を合わせてパンチすると、バランスよく穴を開けることができるんです。
大瀬さんに感心していただいた"斜めゲージ"ですが、なぜこうしているかというと、ゲージを使わない時に紙とぶつからないようにするためなんです。
斜めになっていない通常のタイプには、「ゲージを収納した状態で穴あけをすると、用紙がゲージにあたってしまう」との声や、「引っこ抜いてしまって初めから使わないようにする」というケースが多く見られました。そこで、使わないときに邪魔にならない"斜めゲージ"を開発したんですね。

大瀬:このつくりは〈マックス〉さんでしか見たことがないので感動いたしました。また、この価格帯ですと通常、ゲージ部分はプラスチックが多いのですが、こちらはスチールを使っていらっしゃる。プラスチックですと紙を合わせた時にガタつくことがありますが、スチールならそんなこともありません。一見気付きにくいことかもしれませんが、こういった細かいところまで抜かりないところはさすが〈マックス〉さんだと思います。

―こういった細かいところへのアイデアはどうやって浮かんでくるものなのですか?

山本さん:私たちのものづくりにおける原点は全てお客様なので、パンチやホッチキスもそうですが、いつも商品をお使いいただいている方々などからリアルなお声を聞くところから始まります。

―ユーザーの方々をお招きしてお話を聞く、みたいなことですか?

山本さん:いえ、私たちが出向きます。例えばホッチキスをよくお使いいただいているのはお役所さんなので、アポイントを取ってからお伺いします。
ある時は区役所の1階から4階までチーム総出で回って、1人ずつ聞いていきました。ヒアリングだけでなく、どのようなシーンで使われているのか、使い勝手はどうかを確かめるために、お仕事の一部始終を見せていただいたりもしますね。
それを社内に戻ってから皆で共有し、多かった意見については本当にそうか確かめるために、また別のお役所さんに行って確認してみたり...そういうことを黙々とやっています。

―そこで得られた声をもとに製品開発に進むんですね。

山本さん:そうですね。そして最初の商品企画会議では皆が画用紙などにスケッチレベルで「こんなホッチキスやパンチをつくりたい」みたいな感じでとてもラフに始めるんです。お茶を飲んだりお菓子を食べたりしながら、とても和気あいあいな感じで会議は進みます。
そこから開発設計に進んでからは一気にギアが入ります。開発スタッフは、スイッチが入ると気軽に話しかけられないくらい没頭するので、製品開発の企画と設計のプロセスでは非常にメリハリがありますね。

大瀬:メリハリ...つまり弛緩と緊張...。獲物を捉えるその一瞬に全ての力を注ぐのは、武道と何か通ずることがあるかもしれませんね。

山本さん:間違いなくありますね。

―あるかなあ...。

腱鞘炎に悩むクリーニング屋さんの力になるために

―さて、最後にご紹介するのはこちら、〈HD-10TL〉というホッチキスですね。こちらを選んだポイントを大瀬さん、教えていただけますか?

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マックス HD-10TL 各800円+税

大瀬:見た目が道工具っぽいところですね。

山本さん:...道工具?

大瀬:はい、この無骨なデザインが個人的にとても好みでして。

―まさかの見た目から入るタイプだった。

山本さん:でも大瀬さんがおっしゃる通り、こちらはデザインにとてもこだわったアイテムでして、おかげさまで2019年のグッドデザイン・ベスト100にも選ばれました!とにかくラクに、しっかりと綴じられるのが特長です。

大瀬:確かにこれは本当に使いやすくて驚きました。見た目は無骨ながらとても軽く、ずっと持っていても疲れにくいのもよいですね。

山本さん:ありがとうございます。軽くて疲れにくいというのは特にヘビーユーザーさまにとてもご好評でして、例えばクリーニング屋さんって我々が思っている以上にホッチキスを使っているんです。

―クリーニング屋さん...?

山本さん:クリーニングし終わった洋服にはタグが付いているじゃないですか。あれはクリーニング屋さんが一つひとつホッチキス留めしていることがほとんどです。衣替えの時期ですと1日に1,000着もの衣類をこなすこともありますし、タグが万が一取れちゃうといけないので大体2回は綴じるので、多い時は1日で2,000回ほど綴じることもあるんですね。ですから、ひどい場合だと腱鞘炎になる方もいらっしゃいます。

大瀬:2,000回...壮絶...。

山本さん:しかもクリーニング屋さんにはご年配の方や女性の方も多くいらっしゃるので、体力が続かないという声が本当に多くあったんです。クリーニング屋さんの他にも自動車関係の部品を袋詰めしている企業様や、もちろん海外のヘビーユーザー様にも話を聞くなどして、さまざまな角度からホッチキス留めをなんとかもっとラクにできないかということでこちらの開発が始まりました。

その結果、てこの原理を応用した仕組み、「可変倍力機構」の搭載に成功したんです。もうこれはぜひ一度綴じていただきたいですね。従来よりも大分ラクに綴じられるようになっていますから。

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大瀬:...うむ、やはり見事!

山本さん:ポイントはまだまだあって、例えば装填する回数をなるべく少なくすることにもこだわりました。従来品ですとホッチキスの針が50本のまとまりとしてあったら、それが1~2個しか入らなかったのですが、まるごと3本入るようにしました。なので、連続して150回綴じることができます。

大瀬:よくあるものだと、3連入りそうでギリギリ入らないですよね。あれがちょっと嫌だとは感じておりました。

山本さん:ですよね。特に綴じることが多い方にとっては、何度も装填するのはただただストレスだと思うので、それをできる限り解消するための設計になっています。

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―すごい...〈マックス〉さんのものづくりへの本気度が伺えます...。

大瀬:今見て気付いたのですが、この中央部分にある透明なテープありますよね?これって昔からテープでしたか?

山本さん:よくぞお気付きになりましたね!ここもこだわりポイントの一つで、従来品だとここは金属だったのですが、装填する際に万が一この部分で手を切ってしまうことがないように、手ではまず切れない特殊なテープを採用することにしました。

大瀬:こんなやわらかいテープなのに中で絡まないように設計できていることに驚きを隠せません。あまり気付かれないところかもしれませんが、こういう細かいところもよりよくしようという探究心が素晴らしいですね。

山本さん:ありがとうございます。全てのアイテムの始まりがお客様からのリアルなお悩みや、心からの「こういったものが欲しい」というお声です。しかも我々はそれを直接聞いていて、実際に困っていらっしゃる人を目の当たりにしているので、なんとかして改善したいと思いますからね。

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―改善するというプロセスにおいて、これまで手がけてきた技術や知識が活きてくることはあるんですか?

山本さん:もちろんです。1946年に弊社で初めてのホッチキス、「ヤマコースマート」が登場して以来、これまで培ってきたものをその時々によって応用してきた結果、今があります。

大瀬:お話をお伺いして、徹底したお客様視点と、半世紀以上にわたるホッチキスやパンチづくりのノウハウが〈マックス〉さんの強さだとお見受けしました。いちバイヤーとして見てもその強さはとても強固なものだと感じますし、その強さに心惹かれる方が多いのも頷けます。私も心惹かれた者の一人として、これからも〈マックス〉さんのご活躍を見守りたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。

山本さん:こちらこそ、これからもよろしくお願いします!

おわりに

ハンズ歴29年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、様々な文具の魅力に迫る連載記事。第六回は、〈マックス〉さんにホッチキスやパンチの奥深い話を聞いてきました。次回は〈ぺんてる〉さんに突撃予定。乞うご期待!

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