元クレイアニメ作家で輸入文具店で働いたのちにハンズにやってきたという、異色の文房具バイヤー大島による連載企画。第7回目の今回、取り上げるのは〈トラベラーズノート〉。担当者の元を訪ねてその世界観を深堀りしながら、大島ならではの文房具への愛あふれる視点を交えてお伝えします。
トラベラーズノートはどう生まれたの?その世界をちょっと深堀り
―大島さん、こんにちは。今回は〈トラベラーズノート〉を取り上げるそうですね。
大島:はい。ちょうど新商品も発売されるので、改めてその唯一無二の世界観を深堀りしたいと思い、今日は〈トラベラーズノート〉を展開する株式会社デザインフィルさんにお邪魔しました。
ハンズ 文房具バイヤー 大島
オフィス内にある〈トラベラーズノート〉のブースに寄り道中...
大島:飯島さん、今日はいろいろ聞かせてください。よろしくお願いします!
飯島さん:よろしくお願いします!
株式会社デザインフィル トラベラーズ事業部 事業部長 飯島さん
―ではまず、改めて〈トラベラーズノート〉の特徴やコンセプトを教えてください。
飯島さん:その名のとおり「旅」がコンセプトで、2006年から販売スタートしました。もちろん旅に持って行くことも想定していますが、旅先で出会ったものを書いたり貼ったりするように、このノートを使うことで日常でも旅気分を楽しんでほしいという思いが込められています。機能的な特徴は、自分好みにいろいろとカスタマイズできるところですね。
トラベラーズカンパニー
トラベラーズノート
レギュラーサイズ(黒・茶・キャメル・ブルー) 各4,400円(税込)
パスポートサイズ(黒・茶・キャメル・ブルー) 各3,520円(税込)
リフィル 264 円(税込)より
商品はこちら>>
大島:そもそもは社内の公募から生まれたと聞きましたが。
飯島さん:はい。ノートをテーマにした社内コンペが2005年に行われ、トラベラーズノートの原型が2位になったのがきっかけです。社内コンペなのでマーケットの事情などは全く考慮せず、自分達がほしいものをつくることだけを考えて企画し、そのスタンスのまま商品化しました。
大島:ものづくりの原点ですよね。自分がほしいものをつくる。それが研ぎ澄まされていくとヒット商品が生まれるんだと思います。
飯島さん:一概にそれが正しいとは言えませんが、トラベラーズノートに関してはそこにこだわりましたね。そのスタンスは今も変わっていません。
手にしているのは、後ほどご紹介する新商品。こちらは飯島さんの私物です。
―発売当初、大島さんはどんな印象を持たれましたか?
大島:当時はカスタムノートやログノートみたいな形を前面に出したものがあまりなかったので、ここまでコンセプチュアルに打ち出してきたのは新鮮でしたね。そして、すごく無骨で男臭い商品が出てきたなと(笑)
飯島さん:(笑)
大島:革のカバーに味がありますよね。使っていくうちに経年変化して。
飯島さん:タイのチェンマイの工房でつくられた牛革製です。その工房はトラベラーズのノートに携わる前から知っていたのですが、その工房の製品が魅力的で、革自体にもチェンマイの穏やかな雰囲気が出ていて、何か一緒に仕事がしたいとずっと考えていたんです。だからある意味"この革ありき"だったというか。ただ、品質の安定という面で少なからず不安があり...。大島さんもよくご存知だと思いますが、けっこうキズがあるんです。
大島:ありますね。私の大好物の"個体差"です。
飯島さん:もちろん最低限の選別はしていますが...きれいにしたら世界観が成立しないので、あえてキズもそのままにしています。
大島:発売当時って、日本の文房具はクオリティが均一なのが当たり前という感じでしたよね。キズなどが味として捉えられるのは最近の風潮だと思うので、当時そこにチャレンジしたのはすごいです。
飯島さん:でもこだわったのはカバーだけではありません。中のリフィルは弊社の流山工場でつくっていて、紙は書き心地のよさを追求したオリジナル用紙を使っています。カバーと中身、両方の魅力が合体することで、この世界観が完成するんです。
どんどん広がる、その世界。トラベラーズノートの歩みを知る
―トラベラーズノートの歴史や変遷を教えてください。
飯島さん:最初はカバーと5種類のリフィルからスタートしました。その後、ダイアリーをはじめとしたリフィルを充実させ、2009年にはパスポートサイズが登場します。2010年には仲間として〈ブラスプロダクト〉や〈スパイラルリングノート〉も登場し、さまざまなコラボアイテムやカスタマイズアイテムを展開しながら今に至る感じですね。広げられているのはトラベラーズノート10周年の際に制作されたフライヤー。持っているのは無垢の真鍮を使った〈ブラスプロダクト〉の〈ブラスペン〉です。
大島:関連商品も含めてアイテムはかなり充実していますよね、リフィルのバリエーションも豊富だし。世界観の醸成やお客様との接点という観点では、どんなことを行ってきたんですか?
飯島さん:まず2007年に、商品に同封された無地のポストカードに自由に何かを書いて送っていただき、入賞者に賞品を贈るというキャンペーンを始めました。賞品のTシャツや手ぬぐいをつくるのも楽しくて、毎年開催して2015年まで続きましたね。そして同じ2007年には、「トラベラーズエアライン」や「トラベラーズカフェ」という空想の会社や店舗をイメージした限定リフィルを発売しました。こういうロゴで、こういうデザインで、と全て勝手な妄想で。これまた楽しくて(笑)
大島:(笑)想像しただけで楽しいのがわかります。
飯島さん:半分は遊びで、でも大真面目に考えて。トラベラーズノートの世界観が確立され、広がっていく下地ができたのが2007年です。
大島:なるほど、そこから加速していくんですね。
飯島さん:はい。2008年には社員向けに1日限定で流山工場に「トラベラーズカフェ」をリアルオープンし、2009年には初のユーザーイベントを青山で開催しました。そこで「私はこう使っています」といった生の声を聞くことができて、お客様の声と向き合うことの大切さを再認識しましたね。それが2011年に中目黒にオープンしたトラベラーズノートの世界の発信基地「トラベラーズファクトリー」にもつながります。
大島:トラベラーズファクトリーは、なんというか"秘密基地感"があって素敵です。
飯島さん:あの場ができて、できることの幅もグンと広がりました。トラベラーズノートの世界観に合うものを自由につくって、集めて、販売できるので。例えば徳島の「アアルトコーヒー」とのコラボブレンドとか。
大島:あ、先日ちょうど買いに行きました、トラベラーズブレンド。好きなんです(笑)
飯島さん:なんとタイムリーな(笑)
大島:コラボレーションもたくさんしてますもんね、国内外を問わず。
飯島さん:「エースホテル」をはじめ、航空会社や鉄道などさまざまなコラボをしてきました。中でも印象深いのは2013年の「香港スターフェリー」ですね、香港スターフェリーには個人的な思い入れもあったので。実際のフェリーチケットを商品に封入したりもしました。
大島:チケット付き!いかにも楽しそうですね。
飯島さん:楽しかったですよ、船上を貸し切ってイベントもやりましたからね。2011年のソウルと香港を皮切りに各国でイベントやショップも開催してきましたが、うれしいことに各地にファンがいてくれて、直接触れあうことでそのありがたみを実感できました。
大島:リアルなユーザーともつながって、トラベルの枠にも国内の枠にも留まらずにいろんな人やブランドを巻き込んで、どんどん世界が広がっているのは本当に夢があります。
大島バイヤーの直筆!イラスト解説
世界観が凝縮された限定セットも登場。大島バイヤーなら、どう使う?
―新たに登場する限定セットの紹介をお願いします。
飯島さん:毎年、春に新商品を出しているんですが、今年はこちらの限定セットを発売します。
トラベラーズカンパニー トラベラーズノート 限定セット2022
ホテル、エアライン 各8,800円(税込)
パスポートサイズ限定セット
トレイン、レコード 各3,520円(税込)
※ネットストアでは4/25から販売開始、お一人様1点、数量限定品となります。
商品はこちら>>
〈トラベラーズノート限定セット ホテル〉の内容がこちら。コットンケース、牛革カバー、ノートリフィル、鉛筆、ブラスチャーム2種、リーフレット、ステッカー10種が一箱に入っています。
大島:めちゃめちゃ素敵じゃないですか!
飯島さん:例えば「トラベラーズホテル」はリフィルにホテルのルームサービスが書かれていたり、「トラベラーズエアライン」はリフィルがボーディングパス風だったり。妄想の旅を楽しんでほしいという思いをもう一度突き詰めて、それぞれの世界観と物語を閉じ込めたセットです。ちなみにチャームも動きます、意味はないですが(笑)
大島:世界観が凝縮されていて細部までつくりこまれているから、制作する側は楽しいだろうなぁ。
飯島さん:楽しかったですね、妄想でストーリーを描いて。「トラベラーズトレイン」は寝台列車で、いつ目的地に辿り着くかわからないとか。「トラベラーズレコード」はインディーズレーベルで、いろんな都市を回りながら活動してるとか。
大島:設定が細かい(笑)。でも妄想が現実になることもあるから、あながち妄想で終わらないかもしれないですよね。
飯島さん:何かをノートに書くって、そういうことなのかなと思っていて。願望を書き続けることで、それが現実になったり。トラベラーズノートはそういう風に使ってもらえたらうれしいですね。
こちらは「トラベラーズレコード」。パスポートサイズにはブラスチャーム1種の代わりにスタンプ2種が入っています。
―ところで、大島さんはトラベラーズノートを使ったことはあるんですか?
大島:実は、ないんです。でも今日、飯島さんのお話を聞いて、買うことを決意しました!
飯島さん:(笑)ありがとうございます!ぜひ!
―こう使いたいというイメージはありますか?
大島:絵も描きたいですし、メモをいっぱい書いてノートを消費していくタイプでもあるので、リフィルを使い分けですね。あと、最近は自分自身もエイジングしているからか...革の経年変化にもすごく興味があるんです。
飯島さん:「自分自身がエイジング」って、すごくポジティブな表現ですね!トラベラーズノートの価値観にもぴったり合います。キズの数だけ、シワの数だけ、人もトラベラーズノートも味が出るんだと。
大島:まさに。トラベラーズノートは人生そのものですね。だからキズなんて気にせずにガシガシ使って、自分の分身のように愛でたいと思います(笑)
トラベラーズノートの未来は、どこに向かっている?
―今後はどんな展開を考えていますか?
飯島さん:よく聞かれるんですが、決めていることは特になくて...。と言うのも、振り返ってみると、例えばトラベラーズファクトリーをつくることを当初から考えていたかと言うと、全く考えていなかったわけで。いろんなコラボも同様で、その時その時の出会いやタイミングがそこに導いてくれたんですよね。
大島:流れに身を任せるというか、運命に委ねるというか。
飯島さん:そう。だからこの先も、こうしようとは決めないで、その時の肌感覚みたいなものを大事にしたいと思っています。売上を10%上げることが目標ではなく、楽しいことをしていたら売上が10%上がった、というのが理想形ですね。
大島:そっちの方が絶対に楽しいですし、モチベーションも上がりますしね。
―では大島さんが今後のトラベラーズノートに期待することは何ですか?
大島:イメージとして「トラベル」で思い浮かんだのが「宇宙旅行」なんです。ノートと宇宙がどう結びつくのかはわかりませんが、未来的な感じがして新しいものが生まれそうなので、何かの縁で形になったらうれしいですね。
飯島さん:宇宙か。なるほど、面白い。考えておきます(笑)
大島:あと、国内のクラシックホテルと呼ばれるところとも相性がよさそうだと思っていて。今は国内旅行も再注目されていますし、例えば帝国ホテルの中にミニショップがあったら面白いなと。それと、移動販売とかも面白そうですよね。流れるままに行きたいところへ、まさに旅人のようにトラベラーズノートがトラベルする(笑)
飯島さん:旅をしながら各地で販売して。楽しそうだなあ...それも考えておきます(笑)
大島:私達もハンズとして、商品のデザインとかではなく企画そのもので何かコラボできたら楽しいでしょうね。
飯島さん:ハンズさんには、いわゆるDIY文化を日本で最初に打ち出したという印象があります。ここに行けば何でもつくれる、みたいな。それって、トラベラーズノートのカスタマイズという側面にも通じますよね。
大島:そうなんです、とても親和性が高いんです。今日の出会いも運命かもしれないので、これを機に何かが生まれればと期待しています。何はともあれ、まずはトラベラーズノートを買うことからですね!
大島バイヤーの編集後記
大島:出会いが出会いを生んで新たな旅が始まる
次は誰と、どこで出会い、僕たちを未知なる旅に連れていってくれるのか。
おまけ(ひっそり復活)
この日のリュックにぶら下がっていたのは、熊のキーホルダーが大好きな大島らしい、こちら。
木彫りではありませんが...かわいいからOKなんです!
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