近頃よく聞く「フェーズフリー」という言葉。でも、「防災に関する言葉でしょ?」くらいの認識で、正しく理解できている人はまだまだ少ないのでは。そこで今回、その意味や意義を伝えるべく、フェーズフリー協会代表理事の佐藤さんとハンズの防災用品バイヤー大仲の対談を実施。防災に対する考え方をガラリと変える、聞けば納得のお話をお楽しみください!
正しく理解できていますか?日常時と非常時の垣根をなくす「フェーズフリー」
今回ハンズがクローズアップするキーワード「フェーズフリー」。その概念の提唱者であり、ハンズの展開アイテム選定などでもご協力いただいた一般社団法人フェーズフリー協会代表理事の佐藤唯行さんと、防災士の資格を持つハンズの防災用品担当バイヤー大仲が、対談形式で改めて「フェーズフリー」について深く掘り下げます。
大仲:「フェーズフリー」の提唱者でもある佐藤さんとこうして対談できるのは光栄です。今日はよろしくお願いします!
佐藤さん:こちらこそよろしくお願いします!
大仲:まずは「フェーズフリー」とは何なのか、簡単にご説明いただけますか?
佐藤さん:端的にいうと、身のまわりのモノやサービスを「日常時にも非常時にも役に立つようにデザインする」という考え方です。文字通り、PHASE(区切り)をFREEにする(取り払う)。そういう概念は以前からあったと思いますが、そこにシンプルな名前を付け、2014年に改めて定義しました。
大仲:いわゆる"備えない防災"ですね。フェーズフリーという言葉ができて、私もなんとなく頭にあったものが言語化され、しっくりきました。世間的にも「そういうことか」というモノサシができたと思います。
佐藤さん:でも勘違いされがちなんですが、「日常でも使える防災用品」は本当のフェーズフリーではありません。大前提は日常の暮らしの豊かさであり、その延長線上で非常時の課題も解決する。それがフェーズフリーの正しい概念です。
大仲:非常時のものを日常にも、ではなく、日常のものを非常時にも。
佐藤さん:そう、あくまでも軸足は日常です。ここを間違って認識している人が多いのではないでしょうか。
大仲:私もはじめは間違って解釈していたところがありました。
佐藤さん:たとえば電気自動車には非常用電源になるという側面がありますが、ユーザーの多くは本来の車としての性能などに魅力を感じて選んでいるわけで。日常を豊かにするために選んだ車が、非常時の備えにもなっているんです。フェーズフリーの概念と一致する、わかりやすい例ですね。
軸足を「日常」に置く理由。そして、認知と市場を拡大した認証制度について
大仲:軸足を日常に置くのは、どんな理由からでしょうか。
佐藤さん:「災害時には何が必要ですか?」と聞かれることがよくあって、そういうとき私は「何が必要だと思いますか?」と聞き返すようにしています。そうすると「水、食べもの、着るもの、毛布...」といった感じで出てくるんですが...
大仲:すべて日常でも必要なものです!
佐藤さん:その通り。災害時だから不要になるものって、ないんです。心の平穏のためには娯楽も音楽も必要ですし。そして逆にいうと、災害時だけ必要になるものもなくて。要するに、非常時になっても人間の心と身体は何も変わらない。ということは、日常の暮らしを支えているあらゆるものは非常時にも必要なんです。
大仲:なるほど、とてもわかりやすいです。だから軸足は日常に。
佐藤さん:では、日常のあらゆるものを備えることは可能でしょうか。
大仲:難しい...というか不可能ですね。
佐藤さん:でも、それらをフェーズフリーにすることはできると思いませんか?
大仲:それなら可能かもしれません。日常のあらゆるものに非常時に役立つ付加価値を付ければ、普通に暮らしながら自然と備えができている状態にできますね。
佐藤さん:この概念をより広めるために、2018年からは認証制度もスタートしました。審査を通して、フェーズフリーの5原則に基づいた基準に従い、商品やサービスに認証マークを発行するという仕組みです。
大仲:認証制度によってどんな変化が生まれましたか?
佐藤さん:導入前は、ハードルを設けることで間口を狭めることになるのではという不安もあったんですが...わかりやすい評価基準やルールをつくることで「こうすればフェーズフリーになる」というものが明確になり、防災とは関係のなかった企業も参画していただけるようになりました。
大仲:そういう意識で商品開発をする企業も増えていますし、市場にも新たな動きが出てきていますよね。売り手側からしても、明確な証があることはお客様とのコミュニケーションにおいて非常に有益です。
「コスト」と「バリュー」の関係性。ハンズだからできること、するべきこと
大仲:では、フェーズフリーを多くの人たちに伝えていくために、我々のような小売業ができること、するべきことは何でしょう?
佐藤さん:ほとんどの人にとって非常時というのは人生の1%にも満たない時間ですから、いくら防災は大切だと認識していても、どうしても後回しになってしまったりするもので。だから、その1%以下のために「備えましょう」というアプローチには限界があります。実際、大仲さんもそれを強く感じていると思いますが。
大仲:はい。店頭スタッフやバイヤーとして10年以上にわたり防災に携わってきましたが、ただ「備えましょう」という提案では広がらないと数年前から漠然と感じていて。しかも、こちらがそれを強調するほどお客様は離れていってしまう。ジレンマですね。
佐藤さん:これまで、災害に対する備えは「コスト」と捉えられてきました。お客様にコストを強いることには、少し罪悪感も覚えますよね。でも普通の商品を売るのに罪悪感はないはず。それは、提供しているものが暮らしを豊かにする「バリュー」だから。だとすると、防災も「コスト」ではなく「バリュー」として打ち出していければ、変わっていくと思いませんか?
大仲:「コスト」と「バリュー」、とてもわかりやすいです。なんだかスッと腹オチしました。
佐藤さん:コストは必要最低限に抑えたいものなので、その考えのままでは防災も進みません。「防災用品が売れていない=お客様の生活や命を守れていない」ということですから、それであればアプローチの方法を変えて伝えていくのも小売業の役割なのではないでしょうか。
大仲:まさにそこですね。そして手前味噌ですが...それをハンズがやることに意味があると思っています。
佐藤さん:いろいろなバリューが揃っているハンズさんだからこそ説得力があるんです。ハンズさんの掲げている「お客様に体感していただきたい7つの価値」なんて、ハンズさんだからできるフェーズフリーそのものですよね。商品を通して発信しているメッセージは、そのまま非常時にもつながると思うんです。
大仲:すべての目的は、お客様の日常の暮らしを豊かにすることですからね。そこに"ハンズのフェーズフリー"を確立するためのヒントがあるような気もしています。
ハンズらしさも大切に。今回ピックアップしたフェーズフリーアイテムをご紹介
大仲:ここで今回ハンズが提案するフェーズフリーアイテムの一部を紹介しようと思います。
佐藤さん:いずれも認証商品で、大仲さんといっしょに"ハンズのフェーズフリー"として選定した商品ですね。具体的な商品を見ることで理解も深まると思います!
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腕に巻きつけられる"身につけるメモ"
wemo ウェアラブルメモ 各1,320円(税込)
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大仲:腕に巻きつけて使えるシリコンバンド型のメモで、油性ボールペンで書いても消しゴムや指で消すことができ、繰り返し使用できます。
佐藤さん:ウェアラブルにすることで生まれた「いつでもメモが取れる」というメリットが、「メモを探さなくてよい」「大事な情報を無くさない」といった非常時の利便性にもつながるという例ですね。
大仲:日常のスーパーでのお買い物などでも便利ですし、病院や建設現場、そして実際の災害現場でも使われています。
佐藤さん:あとはこれ、いかにもハンズさんに置いてありそうな商品じゃないですか?すごく便利なんだけど、なんだかちょっと面白くて。紙じゃないのも新しいです。
防犯ブザーも付いた首かけできるLEDライト
キングジム 防犯ブザー付きポータブルライト ポタラ ホワイト 2,750円(税込)
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大仲:首にかけることでハンズフリーになり、足元もしっかりと照らすことができるLEDライトです。本体を引っ張ると大音量の警報音が鳴ります。
佐藤さん:お子さまの登下校や夜間の犬の散歩など、日常で使うシーンもたくさん想像できます。首かけできるのがポイントですよね。防犯ブザーをバッグに入れたりぶら下げたりしていると、すぐに手が届かないですから。
大仲:防塵防水機能もしっかり備えているので、台風や地震などの災害時にも安心ですね。
そのままバケツとして活躍するエコバッグ
三和製作所 バケツにもなる撥水バッグ 3,278円(税込)
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大仲:一見するとシンプルなエコバッグですが、超撥水加工が施されているため、中に水を貯めてバケツとして使えます。たっぷり6L入るので、非常時の水の持ち運びなどにも重宝しますね。
佐藤さん:超撥水加工によって、中の水分が外に染み出したり、雨の日に中のものが濡れてしまったりといったエコバッグとしての課題を解決しています。日常の利便性を高めたら、結果として非常時に役立つ機能も有することになったという、まさにフェーズフリーな商品ですよね。
大仲:バケツありきではなく、エコバッグありき。非常時にバケツがあると便利、とわかっていても結局なかなか買わないものですが、でもこれなら、と思わせてくれるアイテムです。
常にインクが出る加圧式のボールペン
三菱鉛筆 加圧ボールペン パワータンク スタンダード 0.7mm 各220円(税込)
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大仲:内部の圧縮空気でインクを押し出す機構で、上向きでも、濡れた紙でも、氷点下の環境でも書くことができるボールペンです。インクが常に出続けるので、ストレスなくなめらかに書き続けられます。
佐藤さん:こちらも先ほどのエコバッグと同じ図式で、加圧式を採用しているのは過酷な環境で使用するためではなく、書きやすさのため。日常の使い心地を追求したら、非常時にも役立つ機能になったと。
大仲:「非常時用のボールペン」だったら、あまり買おうとは思いませんもんね。書きやすさで愛される、20年ほど前から人気のロングセラーです。
懐中電灯にも充電器にもなる枕元ライト
エレコム 枕元ライト 各3,980円(税込)
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大仲:普段は枕元ライトとして、非常時には懐中電灯として活躍する乾電池式ライトです。
佐藤さん:常に枕元に置いておけば、夜中に地震が起きても暗い中で懐中電灯を探さなくて済む。しかもすぐに持ち運べる。これは大きな差ですよ。
大仲:そしてこの商品のさらなるポイントは、USBケーブルを接続してスマートフォンなどの充電ができるところ。
佐藤さん:災害時にスマートフォンは必須ですからね。わざわざ非常用の懐中電灯や充電器を用意せずとも、ベッドサイドで日常的に使えるからこそ価値があるんです。
取り外して屋外でも使える高性能浄水器
サイテックス 浄水器 SESERA
左:たっぷり大容量タイプ 88,000円(税込)
右:スタンダードタイプ 66,000円(税込)
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大仲:普段はキッチンの水道に接続して浄水器として使用し、非常時には取り外して付属の足踏みポンプに付け替えることで、雨水などの原水を飲用水にすることができます。
佐藤さん:足踏みポンプで浄水にできるというのが新しい。でもシンプルに浄水器として高性能なので、何より毎日の生活で大いに活躍します。キッチンに置いてあってもスマートですね。
大仲:簡易の濾過装置は他にもありますが、それらはまさに非常時用。据え置きタイプの浄水器が非常時にも活躍するというのは珍しいですよね。
デザイン性+便利機能を備えたリュック
エース ジーンレーベル ラグレンティス 68323-01 23L-27L 27,500円(税込)
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大仲:ビジネスにもカジュアルにも使えるスタイリッシュなリュックですが、耐摩耗ポリウレタン加工を施した丈夫な生地、容量を拡張できるエキスパンダブル機能、貴重品ポーチにもなる脱着可能な収納ポケットなど、非常時に役立つ機能も備えています。
佐藤さん:内装の色に視認性が高い明るめのブルーを採用しているのもポイントですね。中に何が入っているかがわかりやすいから、必要なものを探しやすい。これは非常時にも大事なことです。
大仲:内装が差し色になって、おしゃれだったりもしますし。
佐藤さん:とはいえ、それらの機能はすべて日常でも役に立つ機能なわけで。通常のバッグとしての便利さの先に、という図式ですね。
「フェーズフリー」であることが当たり前になる。それこそが理想の未来
大仲:フェーズフリーの未来に関しては、どんな考えをお持ちですか?
佐藤さん:理想は「エコ」と同じ道筋ですね。環境配慮という概念は以前からありましたが、「エコ」という言葉で共通言語化されて浸透し、いまではエコであることは当たり前。もはや声高に叫ぶことは少なくなり、エコが前提となる社会ができあがりました。
大仲:なるほど。わざわざフェーズフリーとうたわなくても、暮らしの中と意識に浸透している。それこそが理想の社会であると。
佐藤さん:そう。そこまでいけばフェーズフリーという言葉はもう役割を果たしたといえますね。そしてそうなることで、これまで解決できなかった「防災」という課題が、初めて解決できるのではと思っています。
大仲:売る側の使命は「フェーズフリーなものの方が売れる」世の中をつくることかもしれません。それが結局、お客様の生活と命を守ることにつながるわけですから。
佐藤さん:私の願望は、ハンズさんにあるすべての商品がフェーズフリーになることです。もっともっとフェーズフリーなアイテムを発信する。しかも楽しく、堅苦しくなく。それができるのがハンズさんだと思っているので、期待しています!
大仲:ハンズとしても継続的に取り組んでいきたいと思っています。今日はありがとうございました!
おわりに
防災の認識そのものを変える可能性を秘めた「フェーズフリー」。その意味や意義が正しく広く浸透していけば、未来はきっと変わるはず。これからますます注目です!
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