この連載は、文具沼にハマった事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語。今回は事務用品のザ・定番アイテム"指サック"と、日本が誇る歴史的ロマンチック器物である"はにわ"がコラボレーションした指サック界の新星、〈はにさっく〉を大特集!このアイテムが生まれた経緯などについて、大瀬バイヤーがぜひ話をうかがいたいとのことで、急遽リモートで〈ライオン事務器〉さんへのインタビューを決行しました。
わりと社運がかかっている〈はにさっく〉
―大瀬さんこんにちは。お、早々に〈はにさっく〉のインタビューの準備ができてるじゃないですか!
事務用品バイヤーの大瀬。最近は定番モノより一風変わったモノに関心がある。
大瀬:はい。というかもう始めています。
―え?ってことはもうその画面の向こうには...
左:商品開発担当 土門さん 右:広報担当 箱崎さん
画面中央は画面が分かれているのではなく、感染症対策のため透明なパーテーションで実際に区切られているらしい。なお、〈ライオン事務器〉さんは、1792年創業というとんでもなく長い歴史を持つ、事務用品とオフィス家具の総合メーカー。創業当時は筆や墨、すずりや紙を取り扱う商社から始まったとのこと。
土門さん・箱崎さん:こんにちはー!よろしくお願いします!今回は私たちがつくった〈はにさっく〉を大々的に取り上げてくださるということでとても嬉しいです!
―やはりもういらっしゃった...!よろしくお願いします...!ところで大瀬さん、なぜ今回はこの〈はにさっく〉を取り上げようと思ったのですか?
大瀬:そりゃあもうヘンテコな商品だからですよ。
ライオン事務器 はにさっく(2個入) 各450円+税
土門さん・箱崎さん:ヘンテコ(笑)!
―なんですか藪から棒に!ヘンテコだなんて失礼じゃないですか!ねえ土門さん、箱崎さん!
土門さん・箱崎さん:あっはっはっは(笑)!
―笑ってる。
大瀬:事務用品のバイヤーとしてこれまで色々な指サックを見てきましたが、はにわをモチーフにしたデザインは初めて見たのでこれは興味深いと思いましてね。
―まあそりゃあ初めて見たでしょうけど...。〈ライオン事務器〉さんは200年以上の歴史がある中で、今まで数多く指サックをつくってこられたと思いますが、なぜはにわをかけ合わせようと思ったのですか?
土門さん:それで言うと、そもそも弊社は今まで指サックを独自でつくってきたことすらなかったりします。なので、はにわをかけ合わせたのもチャレンジングですし、指サックづくりのノウハウもなかったのでそこもチャレンジング。会社としてもなかなか類を見ない、攻めに攻めたダブルチャレンジング企画だったと言えますね!
―こんなにおっとりとしたアイテムにそこまでの重圧がかかっていたとは...。
大瀬:バイヤーとして今までも〈ライオン事務器〉さんのアイテムを何度か拝見してきましたが、それらとは打って変わって個性丸出しなこちらが出てきたので、「風向きが変わった...!?」と思ったものです。
箱崎さん:大瀬さんがおっしゃる通り、〈はにさっく〉は弊社の一般的なアイテムと比べるとかなりの異彩を放っております。というのも、弊社では入社1年目〜3年目くらいの若手社員だけで集まって、皆で「こんなアイテムが欲しい」というアイデアや意見を出し合って商品化に繋げていくというプロジェクト、通称「夢工房プロジェクト」というものがありまして、〈はにさっく〉はそこで生まれた経緯があるんです。
―ゆめこうぼう...プロジェクト...!
土門さん:その中である若手社員が、よくあるオレンジ色の指サックを眺めていたら「なんかはにわに見えてきた」とか言い出して、そこで盛り上がった結果、商品化に至ったというのがこれまでの経緯です。
―きっとその社員さんはよほどのはにわ好きだったんでしょうね!普通そんなこと思わないですもんね。
土門さん:いや、そんなにでもなかったようです。でも博物館とか展覧会に行くのは好きで、たまたま行った催しではにわが飾ってあったみたいなんですよ。それにインスパイアされちゃって、気がつくとはにわを投影するようになっちゃったんですって。
―なんですかそのエピソードは(笑)。ちなみに夢工房プロジェクトでは他にいくつくらいのアイデアが出てきたんですか?
箱崎さん:年間でだいたい100個くらいのアイデアが出て、その中から商品化まで至るのは1〜2個ですね。その狭き門をくぐり抜けたのがこの〈はにさっく〉という訳です。
―ものすごいエリートじゃないですか!
大瀬:何も大層な志がなくとも魅力的なアイテムはできるというもの。むしろ現代においては、〈はにさっく〉のように肩肘の張らない柔軟なものの方が日々を過ごしていく上でヒントになることも多い。そういった、アイテムとしての懐深さがあったからこそ、〈はにさっく〉が他のライバルたちから頭1つ抜けられたのでしょう。そうですよね、箱崎さん。
箱崎さん:あ、はい(ちょっとよくわからないけど)。でも確かに、若手だからこその柔軟な視点がそのまま形になったような、シンプルにユニークな部分が社内でもウケたのだとは思いますね!今後もこういったアイテムをどんどん出していきたいと思っていて、〈はにさっく〉はその先陣を切る、重要な役割を持つアイテムなんです。
―大瀬さんはそのユニークさがお気に入りポイントということですか?
大瀬:左様。ちなみに私はこのように使っています。
ぐにょーんと伸ばす大瀬バイヤー。指サックとしての確かな強度を誇るがゆえにできる芸当ですが、もちろん〈ライオン事務器〉さんが推奨する使い方ではありません。
土門さん・箱崎さん:あ、ああ〜〜〜!!
大瀬:ふふっふっふっっふ...ストレスリリーサー...。柔軟な視点を持つアイテムだからこそ、使う側もその視点に感化されてさまざまな使い方を発想するのですよ。うむ、〈はにさっく〉、やはりよいアイテムですね。
土門さん・箱崎さん:お言葉は嬉しいけど、はにわがかわいそうだからほどほどに〜〜!
悪戲に興じる大瀬バイヤー。
あくまで「指サック」であって、「ミニはにわ」ではない
―ええと、先ほどはまだご紹介もままならないうちに邪道な使い方を披露してしまってすみませんでした...。改めて、〈はにさっく〉の特長や生まれた経緯を詳しく教えていただけますか?
土門さん:特徴は指サックという定番の事務用品にはにわという新しい魅力を組み合わせたところで、1パッケージにつき2種類のサイズ・表情のセットが計3セット、というラインナップになっております。
どれもちょっとトボけた顔でかわいい。
―なぜ2個セットにしようと思ったのですか?
土門さん:1人でいるとさみしそうだったのが一番の理由です。相方的な子も一緒にいた方が楽しそうですし、その方がより欲しいって思っていただけるんじゃないかなと思いまして。この組み合わせにもこだわっていて、最もグルーヴ感というかユニット感が出る組み合わせにしているつもりです。
―はにわのユニット感...。
土門さん:はにわ界では有名な「踊る人々」も大小2体一緒に並んでいることが多く、このユニット感は、はにわファンにとって大事じゃないかと思いまして...。
大瀬:はにわ界のことをよく勉強なさっている...さすがです。
土門さん:私は〈はにさっく〉を商品化するにあたり、先ほどお話した生みの親である若手社員から商品開発を引き継いだのですが、その社員と話しながら指サックに、はにわという要素を加えるというアイデアだけに満足するのではなく、はにわファンの方々にも認めていただけるようなクオリティを目指すことを目標にしました。それは、長い歴史を持つ我々として当然目指さなければいけないことだと思ったからです。
大瀬:その姿勢、感服です。
土門さん:このアイデアが生まれたのはかれこれ2年前のことで、そこから今に至るまでに、できる限りたくさんの書物を紐解き、はにわが展示されている博物館には何度も足を運びました。博物館では写真撮影がNGのところもあったので、脳内に形状や雰囲気などを記録するためにじーっとはにわと対峙したりして。もちろん、そんなことをずっとしていると、はにわへの愛着も出てくるわけで、いちはにわファンとしての私が納得できるものをつくりたいとなっていきました。
―博物館でずっとはにわだけと見つめ合っているってすごいな。では、〈はにさっく〉は実際のはにわを忠実に再現したものなのですね。
土門さん:例えば先ほど話題に出した「踊る人々」をモチーフにしたこちらは、手や目の位置などを参考にしています。
土門さん:ただ、はにわ好きの方々にも認められるという目標はありつつも、あくまでこのアイテムは「指サック」であって、「ミニはにわ」ではないということはずっと意識していました。実際のはにわに近づけ過ぎると、元々のアイデアであった、「よくある指サックがなんかはにわに見えてきた」という着眼点からズレてくるなと思いまして。実際のはにわはさまざまな色がありますが、小サイズは色も多少デフォルメしています。当初はよりリアルに近いものだったんですけど、そうするとより肌色感が増すので、試作品を見た社員から「指が転がっているみたいでとてもこわい」という感想が相次いだために調整してこのようになりました。
―はにわファンからも文具ファンからもご支持いただけるように、リアルとデフォルメのバランスをかなり意識したのですね。
箱崎さん:文具ファンからもご支持いただけるようにという観点では、指サックとしても使いやすいレベルになるまでこだわり抜きました。たとえば内側には、使っていてズレてこないようにリブ(縦の線)を入れたり、指の腹の部分は紙をキャッチしやすい突起を付けたりしています。
よく見ると突起の1つが古墳型になっているのがかなりのこだわりポイントとのこと。
土門さん:先ほどお話ししたように、指サックづくりも初めてのことだったので、設計図づくりや一緒につくってくださる工場探しなど、一つひとつの工程をお恥ずかしいほどに試行錯誤しながら進めました。その結果、トータルで2年間もかかってしまいました...。
―その情熱、本当にすごいなあ...!
箱崎さん:指サック向けのシリコン素材も弊社では取り扱っていなかったので、納得できるものになるまで試作をくり返しました。なので、先ほど大瀬バイヤーが絶妙な表情をしながらされたように、ぐにょーんと伸ばしてもちゃんと元に戻りますし、破けもしにくい耐久度を誇っています。
こういった耐久テストも相当こなしてきたらしいです。
「ヘンテコ」こそが、人々の心を動かす
―はにわとしてのデザイン、指サックとしての機能についてお話いただきましたが、その他にもこだわりポイントはございますか?
土門さん:実は、これまで試作品を何度かつくっては大瀬バイヤーにご意見をいただいていたのですが、特に辛口コメントをいただいたのが「パッケージ」についてです。
大瀬:そうでしたっけ?
土門さん:このパッケージは最初からこうだった訳ではなく、もう少し普通のデザインだったんですよ。ただ、大瀬バイヤーから「それだと他の指サックに埋もれる、パッと見でもっとはにわだとわかるようにした方がよいのでは?」とご指摘をいただいたんです。
大瀬:...そうでしたっけ?
土門さん:それで社内でさんざん検討した結果、「古墳」のイメージを取り入れる案が出てきた時はもう社内が揺れましたね。「うおーー!」って。
―(笑)。
土門さん:パッケージの裏面にも色々と工夫を凝らしてまして、例えば実際のサイズがわかるように実物大の指先サイズのデザインを施しています。
―なるほど、これなら簡単に自分に合ったサイズかチェックできますね。
土門さん:それもこれも、パッケージのことまで見てくださった大瀬バイヤーのおかげです。私たちとしては、この〈はにさっく〉は大瀬バイヤーと一緒につくりあげたものだと思っています。
大瀬:いえ、そんな礼には及びません。
土門さん:ちなみに弊社の長い歴史の中で、目や鼻、口などの表情がついた商品が世に出るのは今回が初めてのことでして、先ほど「はにわ&指サック」のダブルチャレンジングと言いましたが、厳密には「トリプルチャレンジング」なアイテムでして、正直なところ、私の開発人生もそれなりにかかっているという...(笑)。
初めてこのアイデアを見た時に、直感的に「これは売れる!」と感じたのですが、実際のところは市場に出てみないとわからないじゃないですか。それどころか、わりとシュールなアイテムなので、そもそも販売店さんに置いていただけるかどうかさえも心配でした。でも、大瀬バイヤーは試作品に対してご指摘こそすれども否定は全くしなかったし、完成版を見ていの一番に「ハンズで扱います」とおっしゃってくださって、それがとても嬉しかったんです。
大瀬:〈はにさっく〉のことをヘンテコと言いましたが、変だと思うほどの情熱がないと人の心を動かせないと思うのです。なので、私にとって「ヘンテコ」とは褒め言葉。
普通につくれば、もっと時間や予算のコストを省いてもっと早くできたと思うのですが、そうはしない、いや、できないと言った方が正しいでしょうか。そういった、よい意味での不器用さというか、ひたむきさは見ていると心を打たれますよ。この〈はにさっく〉、ただのアイデアアイテムと抜かることなかれ、手に取れば伝わってくる職人魂にきっと動かされるものがあるはずですから。
―って、よいこと言いながらもずっとぐにょーんってしてる!どんだけ好きなんですか!
大瀬:ストレスリリーサー...ふふっふっふっふ...。
おわりに
ハンズ歴29年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、さまざまな文具の魅力に迫る連載記事。第十一回は、指サック界の常識を楽しく覆す〈はにさっく〉をご紹介しました!大瀬バイヤーは次回、どんなアイテムをピックアップするのか!?乞うご期待!
【連載vol.1】定番モノは文具沼への入り口 〜バイヤーお気に入りの文具をご紹介編〜
【連載vol.2】定番モノは文具沼への入り口 〜ツバメノートさんに潜入編〜
【連載vol.3】定番モノは文具沼への入り口 〜マジックインキを深掘り編〜
【連載vol.4】定番モノは文具沼への入り口 〜トンボさんに突撃編〜
【連載vol.5】定番モノは文具沼への入り口 〜定番を覆す新TOKYOカレンダー編〜
【連載vol.6】定番モノは文具沼への入り口 〜ホッチキスとパンチのことをひたすら聞きにいく編〜
【連載vol.7】定番モノは文具沼への入り口 〜ぺんてるさんとお手製年賀状を渡しあってきた編〜
【連載vol.8】定番モノは文具沼への入り口 〜令和のハサミとコンパスに触れてきた編〜
【連載vol.9】定番モノは文具沼への入り口 〜三菱鉛筆さんのペンへのこだわり編〜
【連載vol.10】定番モノは文具沼への入り口 〜テレワークで便利なアイテムを紹介したかった編〜
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