【連載vol.19】定番モノは文具沼への入り口 〜「はにさっく」にまさかの新作が登場編〜

この連載は、文具沼にハマった事務用品バイヤーの大瀬が、あなたを深い深い文具沼へと誘(いざな)う物語。今回は、昨年9月に登場して以来、「指サック」界のサクセスロードを瞬く間に駆け抜けていった超人気アイテムである、あの〈はにさっく〉から、まさかの第二弾がデビューするとのことで、大瀬バイヤーと開発を手がけた〈ライオン事務器〉さんにお話を伺ってきました。

担当者もビビるほどの話題を生み出した〈はにさっく〉旋風

―さて、今回は大瀬バイヤーと一緒に事務用品とオフィス家具の総合メーカー〈ライオン事務器〉さんにやってきました。文具ファンのお方ならピンとくるかもしれませんが、〈ライオン事務器〉さんと言えば、「指サック」と「はにわ」という謎の組み合わせ(褒め言葉)によって誕生した〈はにさっく〉が大きな話題を集めていますね。

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ライオン事務器 はにさっく 各495円(税込)

大瀬:左様。ちょうど1年ほど前ですね、この連載記事でも取り上げさせていただきまして、その際は〈はにさっく〉開発の担当者である土門さんたちの尋常ではない「はにわ愛」が伝わってきたのをよく覚えています。私はヘンテコなものが好きなので「これは素晴らしい」と心を動かされましたが、冷静に考えると「はにわの指サックってなんだよ」って感じでもあるので、果たして世の中に受け入れられるのだろうかと、その結果が気になっていました。ただ、蓋を開けてみると大好評。新しい指サックの価値が認められた瞬間に立ち会えて、いちバイヤーとしてもいち文具ファンとしても非常に感動しました。

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事務用品バイヤーの大瀬。写真は昨年の取材時に、話を聴きながら〈はにさっく〉をぎゅーっと引っ張っている様子(当然メーカー非推奨)。

―今回は、そんな〈はにさっく〉からなんと第二弾が出るということで、前回の取材にご登場いただいた土門さんに加え、同じ〈はにさっく〉担当としてデザインなどを手がけられた安井さんにお話をお聞きしたいと思います。土門さん、安井さん、よろしくお願いします!

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商品開発担当の土門さん(左)と安井さん(右)。

土門さん・安井さん:よろしくお願いします!!

―期待通り、〈はにさっく〉がたくさんの方々に受け入れられたようで本当によかったですね!

土門さん:期待通りどころか、我々も驚くほど多くの方々に手にとっていただけまして...いやあ〜本当によかったです...!!弊社は"事務器"という名が付いてる通り、手がけているのは基本的に地味めな商品が多く、SNS上で話題になるようなものはあまりなかったんです。なので、発売から1年が経った今でも色んなユーザーさんがSNS上に〈はにさっく〉を投稿してくださっている状況に、もうかなりびっくりしていて...。我ながらニッチな視点でのアイテムだなとは思っていたので、日本には「はにわ好き」の方ってこんなにいるんだと思いました。

安井さん:「かわいいから使わない時もデスクの横に飾ってます」みたいに、指サックとの接点がこれまであまりなかった方も〈はにさっく〉には興味を持っていただけたのが特に嬉しかったです。他には、意外な使い方として、傘の柄の部分にはめて目印にしていた方や、印鑑にはめている方もいらっしゃいましたね。どちらも本来の目的とは違う使い方ではありますが、なるほどなあと感心しました。

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複数の〈はにさっく〉を机に並べてローアングル気味に撮ると、「はにわたちを統べる者」みたいになります。

土門さん:個人的にいちばん嬉しかったのは、ご丁寧に弊社にファンレターを送ってきてくださった方がいまして。突然お手紙が届いたので、「まずい...クレームかしら...」とびくびくしながら封を開けてみたら、〈はにさっく〉と身の回りの小物を使って、はにわたちがさまざまなシチュエーションで過ごしている写真がいくつも入っていたんです。たとえば、はにわたちがジンギスカンを楽しんでいる様子とか。そんなことを社内の皆様で休憩時間とかにされているそうで、おかげで仕事が楽しいですなんてメッセージも入っていて、もちろんお返事を差し上げましたし、号泣でした。

安井さん:私もそれを見て目頭が熱くなったのですが、土門がめちゃくちゃ泣いてるのを見て涙腺がキュッとなりました。

―引いちゃうほど泣いてたんですね。

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話を聞きながら相変わらず〈はにさっく〉を引っ張る大瀬バイヤー。

土門さん:そういった方々がいらっしゃったおかげで新作の販売に踏み出すことができたので、本当に感謝してもしきれません...!また、大瀬バイヤーにも本当にお世話になりっぱなしで、今回の新作づくりにおいても幾度となく相談させていただきましたし、社内でアイデアを上申する際も「ハンズの大瀬バイヤーが太鼓判を押してる」という一言で何度ハードルをクリアしたことか...。

大瀬:私は大したことはしてないですが、第二弾まで登場させることができたのはとても嬉しいですね。やはり土門さん、安井さんの並々ならぬ情熱があったからこそ、それが多くの方々に響いたのだと思います。

―きっと新作にもこだわりがたくさん詰まっていると思いますが、その中身について詳しく教えていただきましょうか。

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第一弾はとあるコンテストで優れたデザインであることが認められ、大阪の吉村知事から表彰状もいただきました。

第二弾は「笑い・怒り・眠い」がテーマ

―ここでその第二弾の〈はにさっく〉たちをお見せいただいてもよろしいですか?

土門さん:もちろんです!どうぞ!

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ライオン事務器 はにさっく其の弐 各495円(税込)

―おお!第一弾とは結構雰囲気が違いますね!制作するにあたって何から取り掛かったのですか?

土門さん:第一弾と何をどう変えるか、ということを話し合いました。いちばん最初は、第一弾とベースは変えずに、表情だけ新しいものを出そうかと思ったのですが、それだとあまり見分けがつかないから微妙...という結論になりまして。そこで、表情はもちろん、色を変えることにしたんです。

安井さん:それで第一弾と同じく、本物のはにわに近い色という考え方はそのままに、さまざまな書物を紐解いたり、博物館の展示物を見たりしながらどの色にしようかと試行錯誤していきました。方向性の一つとしては、たとえばピンクやブルーなど「ファンタジーな架空のはにわ」というコンセプトにも振ることはできましたし、実際にデザインもしてみましたが、第一弾のはにわたちとあまりに違い過ぎたので不採用に。それはそれでかわいくはあったんですけどね。

大瀬:第一弾とテイストがある程度同じ方がコレクション欲も湧きますし、写真に撮った時のおさまり具合もしっくりくるでしょうから、よき判断だと思います。

土門さん:そうして色の方向性をある程度固めた上で、今度は表情について考えました。第一弾と同じく計3種類出そうということはあらかじめ決めていたのですが、具体的なテーマがあったわけではないので、まずはもうとにかく思いつく限りのアイデアを出しまくりました。

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〈はにさっく〉専用のブレインストーミングシートに色んなはにわ案を落とし込んでいきました。

―素敵なシートだ(笑)

土門さん:ただ、考えている時は辛い時間もありました(笑)ああでもないこうでもないと頭をグルグルとさせていた時にふと、「あ!!!」となった時がありまして。第一弾に対するご感想で多くあったのが、はにわの顔やポーズに対する共感のお声だったんですね。「私も眠い時はこういう顔してるな」みたいな。なので第二弾でははにわたちの感情をテーマにして、より共感していただきやすくしようと思い、「笑い・怒り・眠い」という3つの感情を軸にしました。さらに、1セット2体のはにわはどちらも同じ感情にし、そのテーマが伝わりやすいようにもしました。

―なるほど、確かにテーマがわかりやすいですね!

土門さん:これらの感情は、1日を過ごしている中で頻繁に生じやすいものだと思ったので選びました。たとえば何か嫌なことがあってイライラした時に、デスクで同じく怒っているんだけどかわいらしいはにわを見て、ちょっと落ち着く...みたいなことがあるとよいなと思って。

安井さん:また、感情がはっきりしている分、物語が生まれやすくなると思ったんです。第一弾は割といかにもはにわらしい表情が多かったので、第二弾はそこを意識的に変えていったのがポイントですね。

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緑の中で眠そうな様子。朝起きたばかりでまだ寝足りないのかな?

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今度は怒っている様子。ここからどんなストーリーが浮かびますか?

―第一弾と組み合わせると無限のようにストーリーができそう...!ちなみに大瀬さんはどの表情がいちばん好きですか?

大瀬:ふむ...怒り...ですね。

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安井さん:さすが大瀬バイヤー、お目が高い!はにわは顔のパーツがシンプルがゆえに、ちょっとした配置や大きさの違いだけで、その印象を大きく変えてしまうということがわかりました。どの表情も何十パターンも案を出したのですが、怒りは調整がかなり難しかったです。というのも、確かにテーマは怒りだけれども、それがネガティブな印象になってはいけないと思ったんですね。怒っているけど愛くるしさもなくてはならないし、かといって愛くるしさを強くしすぎるとあまり面白くなくなるし、というバランスを調整するのがなかなか大変でした。

―「正解」があるようなものではないですもんね...。

大瀬:正解がない中で答えを出す時に重要なのは、やはりその商品に対する情熱ですよ。第一弾を経てより一層「はにわ愛」が増したであろうお二人だからこそ、直感的に「これだ!」というものが見つかったのでしょう。「はにわの指サック」というアイデアだけに満足せず、そこから突き詰めている様子がひしひしと伝わってくるので、お話を聞いていてとても動かされるものがあります。

【おまけのオフショット】

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〈はにさっく〉とカフェタイム。

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〈はにさっく〉がいる職場。

「はにわ×指サック」という奇天烈な組み合わせを全力で応援したい

―他にもこだわったポイントはたくさんあると思うのですが、その内容について教えてください!

土門さん:はにわの背中に付いたすべり止めの突起には、あるモチーフを仕込みました。第一弾では古墳をあしらいましたが、見つけられた方からとても好評いただいたので、第二弾でもまた違ったモチーフを入れています。ぜひお手に取って実物でチェックしていただけると嬉しいです。

あとはもはや自己満足の世界かもしれませんが、パッケージにもこだわっています。全体は日本らしい「藍色」でまとめました。これは〈はにさっく〉本体の新カラーとの相性を見て最もしっくりきたのが選定理由です。

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土門さん:裏面にもご注目を。今回新たにトライしたのは、JANコードのところにはにわなどのモチーフを入れてみたことです。こんな程度のことで「トライ」だなんて...と思われるかもしれませんが、パッケージにまで遊び心を散りばめることは、弊社にとっては大きなチャレンジだったんです...!

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大瀬:これをただくだらないと捉えるか、粋な遊び心と捉えるかは人それぞれですが、私は後者。人の感情が動くきっかけは思った以上に意外なものの場合もあるので、こういった小さな試みを商品の至るところに散りばめるその姿勢はとてもよいと思います。何より、この試みからはつくり手自身が大いに楽しんでいることが伝わってきます。つまり、つくり手の感情が商品に乗っているんですね。

―確かに土門さん、安井さんのはにわ愛が伝わってきます。

大瀬:最近はそういった商品があまり多くないので、たまにこういった、つくり手の異質な熱量がこもっているヘンテコなものを見かけると心が躍りますよ。文具にはただ便利ということだけでなく、使っていて、あるいは持っているだけでちょっと楽しくなってくるような趣向性も大事だと思うんです。それがお客様にとっての「愛着」となっていきますから。なので、「はにわ×指サック」という、この奇天烈な商品を全力で応援したいですし、第二弾もきっと多くの方々の心を動かすと私は思います。〈はにさっく〉、天晴れでございました。

おわりに

ハンズ歴30年の大ベテラン、大瀬が、定番の事務用品を始め、さまざまな文具の魅力に迫る連載記事。第十九回は、大ヒットアイテム〈はにさっく〉の第二弾をご紹介しました!大瀬バイヤーは次回、どんなアイテムをピックアップするのか!?乞うご期待!

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